【はじめての週末移住】都会と田舎、どちらも大切な自分の居場所。週末移住で実現する二拠点生活 【はじめてをはじめる#18】

生活

【はじめての週末移住】都会と田舎、どちらも大切な自分の居場所。週末移住で実現する二拠点生活 【はじめてをはじめる#18】

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やってみたいけれど一歩踏み出せない、新しい趣味を見つけたい。そんな人の背中をそっと押す企画「はじめてをはじめる」。

今回のテーマは、「週末移住」です。

オンラインでの仕事が増え、「もはや東京で暮らさなくても良いのでは?」としばしば思う今日この頃。「田舎に住むのもありかもしれない」そんな考えが頭をよぎりつつも、便利でにぎやかな東京での暮らしを丸ごと捨ててしまうのは、正直、惜しい。

そんなふうに思っていたとき、とあるジャーナリストが多拠点生活をしているという話を耳にしました。「1カ所に留まるのではなく、さまざまな場所にゆるやかなつながりを持って暮らすのが、これからはスタンダードになるだろう」。その言葉に、ハッとしました。「そうか、住まいは1カ所と決めつけなくていいのだ」と。

そこで、家族と共に平日は東京、週末は南房総という二拠点で暮らしを始めて15年目に突入。『週末は田舎暮らし』の著者である馬場未織さんに、週末移住の魅力や始め方などについて、お話を聞きました。

「レジャー」ではなく「暮らし」。それが別荘との大きな違い

佐藤

「週末移住」と、別荘を持つこととは、どう違うのでしょうか?

馬場

実は、「二拠点居住」について、国土交通省が定義を明記しているんです。それが、こちらです。

「二地域居住」とは、都市住民が、本人や家族のニーズ等に応じて、多様なライフスタイルを実現するための手段の一つとして、農山漁村等の同一地域において、中長期(13ヶ月程度)、定期的・反復的に滞在すること等により、当該地域社会と一定の関係を持ちつつ、都市の住居に加えた生活拠点を持つこと。

佐藤

期間が中長期であることと、地域社会と一定の関係を持ちつつ、というところがポイントですね。

馬場

そうですね。別荘は、避暑・避寒などを目的に短期的に滞在する場所ですが、二拠点居住は、1年を通して暮らしをそこに置きます。移住なので、地域とのかかわりも欠かせません。

佐藤

別荘は「レジャー」で、二拠点居住は「生活」ということですね。

馬場

はい。あくまで「暮らし」であることが、二拠点居住と別荘の違いです。

佐藤

馬場さんが実践している「週末移住」も含めて、二拠点居住をする人は増えていますか?

馬場

実感として、移住者自体がすごく増えているわけではないと思いますが、メディアで取り上げられることが極端に多くなったと思います。

佐藤

確かに。私も何度かテレビで見て、興味を持ちました。

馬場

実際、二拠点居住で人気のエリアは地価が高騰しているようです。空き物件が出るとすぐに売れるところもあると聞きます。

佐藤

そうなんですね!東京からだと、どのあたりが人気のエリアなのでしょうか?

馬場

逗子、葉山を含む三浦半島エリアは二拠点居住バブルのようです。最近は、千葉の館山あたりも物件が高くなっているとか。需要が増えてきているんだなぁと感じます。

佐藤

逗子や葉山はサーフィンをする人などに人気がありそうですね。神奈川や千葉以外で、東京在住の人の週末移住の検討エリアはどのあたりなのでしょうか?

馬場

山梨の八ヶ岳エリアはもともと別荘地で、外から来る人への親和性があるので、週末移住の話もよく聞きます。茨城の筑波山あたりも人気だそうですよ。

佐藤

茨城!それは意外でした。

馬場

茨城は、自治体が二地域居住に力を入れているんです。週末移住者向けにちょっとした小屋付きの市民農園を整備するなど、積極的に受け入れているようです。

佐藤

そうなんですね!田舎での週末移住は、どんな人に向いていると思いますか?

馬場

あまりすべてを「ちゃんとやろう」と思い過ぎてしまう人は向いていないかもしれません。

佐藤

というと?

馬場

ただでさえ、住まいが2つになってやることが増えますよね。どちらも完ぺきにしようと考え過ぎると、どうしても義務感が生まれてしまいます。

佐藤

せっかくの楽しい田舎暮らしが、つまらなくなってしまいそうですね。

馬場

だから何事もほどほどに、くらいのスタンスがちょうどいいかなと。それに、自然相手の田舎暮らしはスケジュール通りにいかないことが多いですから、いちいち気に病んでいたら疲れてしまいます。

佐藤

こんな日もあるさ、くらいのゆるい感じがいいということですね。馬場さんのまわりで週末移住をしている人たちは、どんな共通点があると思いますか?

馬場

好奇心の強い人が多いなぁと思います。不安と期待を天秤にかけたときに、いろいろあるけどやってみるか、やりながら考えよう!という、フットワークが軽くて前向きな人ばかりですね。

佐藤

なんとなくイメージが沸きます!みなさん、年齢層はどのくらいですか?

馬場

私が週末移住を始めた15年前くらいは、いわゆる老後の第二の人生として田舎に住み始める人が多かったですが、今は本当に若返っています。ボリュームゾーンは3040代。20代の人もいますよ。

佐藤

リモートワークで仕事をする人が増えて、ますます若い人が増えそうですね。

じっくり型、即決型。移住先探しは、結婚相手探しに似ている

佐藤

馬場さんは現在、平日は東京で、週末は南房総の8700坪の広い敷地にある古民家で暮らしているとのことですが、南房総の物件は、どのように探したのですか?

馬場

東京から車で1時間半くらいで行ける範囲内で、3年ほどかけて50件は物件を見たと思います。

佐藤

3年!それは長い!

馬場

ちょっと時間をかけ過ぎたかなという気はしているのですが、でも、何しろまわりに週末移住をしている人はいなかったし、どうしても慎重にならざるを得なくて。

佐藤

そうですよね。大きな決断ですもんね。

馬場

自分たちの中でも、週末移住暮らしを始めるための心の地固めをする期間が必要だったんです。なかには、パパッと1カ月で決める人もいますよ。

佐藤

さすがに1カ月で決めてしまうのは、勇気がいる気がしますね。なんだか、結婚相手を決める過程に似ていますね。じっくり選ぶ人もいれば、大胆に決めてしまう人もいて。

馬場

そうかもしれません。ほかのエリアと比較検討せずに、初めて出合った土地とそのままゴールインという人もいます。安パイなところを選ぶ人もいるし、なかなかハードだなというところを選ぶ人もいて、個性が出ますね。

佐藤

馬場さんは、土地と古民家とをまとめて購入するという決断をされましたが、借りるという選択肢もあるのでしょうか?

馬場

賃貸物件もそれなりにあると思います。でも、多くの地主さんは、空き家を手放したいと考えているので、基本的には貸すよりも売りたいのではないでしょうか。

佐藤

そうですよね。貸すとなると、管理をしないといけないですもんね。それよりは手放したいというのは、わかります。みなさん、費用はどのくらいかけているのでしょうか。

馬場

エリアや土地の広さ、土地の状態や立地など、条件によるので一概には言えませんが、東京では考えられない安い値段で、広い土地、家を手に入れられますよ。

佐藤

馬場さんの著書にあった、R不動産の方のお話が参考になりそうですね。

例えば、土地を1000万円で買って、家を2500万円で建てて、総額3500万円程度。35年ローンを組んで月々10万円程度の負担。あるいは、「上物(古屋)あり」の物件を買って総額2000万円程度で収めて、月々5.5万円くらいというパターンもありますね

※ただし、セカンドハウス(=生活の拠点としている現在の住まいの他に、週末などに自分でご利用(居住)する住宅)を取得するための【フラット35】(機構又は旧住宅金融公庫の直接融資を含みます)を二重に借り入れることはできない。

佐藤

後者の月々5.5万円くらいならば、家計を頑張ってやりくりすれば叶わない金額ではないのかなという気はします。

馬場

何に価値を置くか、豊かさをどこに見るか、住まいをどうデザインしていくか。それによって家計の考え方は変わると思います。

佐藤

うーん、そうですよね。

馬場

二つの場所に住むというのは、やはりそれなりにお金はかかります。もっと稼ぐか、東京の暮らしをシェイプアップするかのどちらかかなと。

佐藤

稼ぎを増やすのは、急には難しいですよね。

馬場

大きな車に乗っているのだとしたら、小さな車に乗り換えるとか、なんとなく続けている子どもの習い事を辞めるとか。見直せる部分はないか考えてみるのがいいと思います。

佐藤

無駄な出費を削るのが現実的ですよね。

馬場

子どもの教育にかけるお金で言うと、田舎暮らしを教育ととらえることもできますよね。自分たちのライフスタイルのなかで、週末移住の価値づけがうまくできれば、出費の意味を見出せるはずです。

佐藤

馬場さんは、不動産会社に依頼して、いくつも物件を紹介してもらったんですよね?

馬場

そうです。でも、田舎特有の話なのですが、いい物件は、不動産屋さんに出ていないこともよくあって。

佐藤

そうなんですか?

馬場

その土地に行って知り合いを作って、仲良くなっていくなかで「家を貸してあげるよ」というような話もたくさんあるんです。そんなふうに、物件探しよりコミュニティづくりが先行するパターンもありですね。

佐藤

へぇ!そんなことがあるんですね。知り合い同士で貸し借りした方が、お互いに安心ですよね。

馬場

そうなんですよ。移住する側としては、誰も知り合いがいない土地より、知り合いが1人でも2人でもいた方が安心。心の拠り所があるのは全然違うと思いますよ。

佐藤

別荘と違って暮らすわけですから、足を使って、じっくり探すのが良さそうですね。

馬場

もちろん、現地に行ってたくさん見るのは大事なのですが、結局は住めば都。どこだとしても、自分が決めた場所はすごく好きになるんですよ。

佐藤

そういうものですか。

馬場

選ぶ時点ではその場所の当事者ではないけれど、住み始めると、当事者になりますよね。そうすると、選んでいるときとは見える世界が違ってくる。土地や建物の価値を査定しまくるよりも、決めてしまって、あとから価値を感じることも多いと思いますよ。

二拠点生活とは「攻め」でもあり「守り」でもある

佐藤

物件探しを始める前に、しておいた方がいいことはありますか?

馬場

そうですね。移住先で何がしたいかを考えておくと、モチベーションが高まると思います。釣りをしたいとか、畑仕事をしたいとか、DIYをしたいとか、小さな生業を始めたいとか。

佐藤

確かにそうですね。具体的にイメージした方が物件の条件も絞れますよね。

馬場

東京ではマンション暮らしで、子どもが走るまわるといつも怒ってしまう。だから田舎では大きな家に住みたいという人も多いんです。そういう人は、「大きな家」というのを優先すればいいですよね。

佐藤

ほかに、物件探しの前にしておくべきことはありますか?

馬場

もし家族がいるならば、家族と合意形成をしておくことがとても大切。週末移住生活がうまくいっている人たちは、そこを丁寧にやっていますね。一緒に土地を見に行く、こういう暮らし方がいいねと、イメージを共有しておく。

佐藤

家族の反対を押し切ってまで、というのは違いますもんね。せっかくなら家族みんなで楽しみたいですよね。

馬場

週末ごとに田舎に行くことも、田舎に土地や家を持つことも、ライフスタイルが大きく変わること。だから、それを一緒に喜び合えるかどうかは、重要だと思います。

佐藤

そうですね。

馬場

でも、合意形成という意味では、必ずしも家族全員が週末ごとに田舎に来るというスタイルが正解というわけでもなくて。

佐藤

どういうことですか?

馬場

家族がそれを良しとするのであれば、家族がいても単身で田舎に来ても構わないということです。実際、職場と家庭以外の「サードプレイス」がほしいと、男性が一人で週末移住するケースも多いんです。

佐藤

なるほど。奥さんや子どもたちがそれを旦那さんの趣味の一環として認めていれば、問題はないですもんね。

馬場

奥さんや子どもたちは、たまに遊びに来て、別荘的な使い方をしていたり。家族だからといって必ず一緒に行動しないといけないわけではないですから。それぞれの生き方を大事にして、お互いに納得していれば、そういう暮らし方もありだと思います。

佐藤

おもしろいですね。働き方も暮らし方も変わっていくなかで、家族の形も変わっていくのかもしれませんね。

馬場

田舎の友人の家に行くと、単身で週末移住を楽しんでいる男性たちが集っている光景をよく見かけるんです。

佐藤

週末移住先で仲間を見つけて楽しんでいるんですね。

馬場

単身の人、家族がいる人が入り混じっていても、その場では誰が単身なのか、家族がいるのかわからない。さらには、それぞれが東京でどんな仕事をしているのかもわからない。そういう関係性が心地良いんだと思います。

佐藤

東京にいたのでは出会わないような人との出会いもありそうですね。

馬場

同じ目線でお酒を飲んだり、農業をしたり。肩書きや立場などに関係なく、田舎暮らしをしているという共通点だけでコミュニティができるのがいいところです。

佐藤

そういう気張らずにいられる居場所を持つのって、いいですね。

馬場

一つの場所に居続けるというのは、ここで失敗したら終わりというような、変なプレッシャーを生むこともありますよね。こっちがつまらなくなっても、あっちにも友達がいるしと考えることができた方が、肩の力が抜けて、生きやすいと思います。

佐藤

本当にそうですね。私、馬場さんの本に書いてあった、二拠点居住生活は「攻め」でもあるし、「守り」でもあるという言葉にすごく共感したんです。

馬場

複数の場所に住まいを持つって、普通に考えたら攻めた生き方のように見えるけれど、安定して暮らせる場所をいくつも持つと考えたら、安全保障のようなもの。プロテクトするというより、備えという感覚ですね。

佐藤

はい。物理的にも、精神的にも、複数の場所に帰る場所があるというのは、心強いなと思います。

馬場

一方で、週末移住をしているこちら側にとっては備えだけれど、結局それは、地域を消費しているんじゃないかという罪悪感もあって。地元の人たちはその場所にしか住んでいないのに、備えなんてと。

佐藤

うーん、それは確かに一理ありますね。

馬場

東京がメインでこちらは備えのサブなんだろうと、地元の人に思われたくないなという意識がずっとあって。

佐藤

田舎に愛着が沸けば沸くほど、そういう想いが生まれるのかもしれませんね。

馬場

一昨年、台風で千葉が大きな被害を受けましたよね。そのとき、二拠点居住生活をしている人たちが、こぞってボランティアに行ったんです。東京の家は被害にあっていませんから、みんな、行くことができて。

佐藤

そうなんですね。

馬場

そのとき、ようやく地元の役に立てた感覚がありました。地元の人たちにとっては、二拠点生活をしている人たちが、いざというときに助けに来るという、安全保障の役割を果たすことができるなと思ったんです。

佐藤

なるほど。ウィン・ウィンの関係性ということですね。

馬場

私たちのことを、困ったときに一番身近で助けに来てくれる存在だと思ってくれればいいなと思っています。

リアルにつながり合えている感覚。それが地域コミュニティの魅力。

佐藤

週末移住をしている人は、田舎でどんな過ごし方をしているのでしょうか?

馬場

人それぞれですが、最近私のまわりに多いのが、DIYおじさん。棚を作ったり、家を改装したり、修繕したり、道具を揃えてちょっと始めると、いろんなことができるようになるので、ハマってしまうみたいです。

佐藤

「DIYおじさん」(笑)。名称がかわいい。

馬場

でも、張り切って着手したものの、なかなか終えられなくて辛くなり、鬱になるという人もいるみたいで。そういうのを、「DIY鬱」っていうみたいです。

佐藤

そんなのがあるんですか。何もかも真面目にやろうとすると良くないですね……。

馬場

私が南房総で運営しているNPOで、ワークショップをしたときに、DIYおじさん同士が知り合って、ネットワークができたんです。農業もDIYも同じなのですが、複数人でやった方が奇数関数的にはかどるので、みんなで協力して作業するようになって。

佐藤

チームを組んで取り組み始めたんですね。

馬場

共同作業が絆になって、今日はこの人の家を直そう、次はあの家が大変そうだと、あっちこっちで活動しています。この地域では「DIYマフィア」と呼んでいるんですが(笑)。

佐藤

マフィア(笑)。ネーミングがどれもおもしろいですね。

馬場

DIYを極めてエキスパートになり、仕事を辞めて本格的に移住して、それを本職にし始めた人もいます。

佐藤

へぇ!

馬場

そういう人たちも、1日中DIYをしているわけではなく、釣りに行ったり、サーフィンをしたり、趣味ごとに付き合う人を変えて楽しんでいますよ。

佐藤

趣味を通して、どんどん地域でつながりができていくんですね。

馬場

それと、最近の小さなブームは、農業ボランティア。台風での被災後からできてきたうねりなのですが、地元の畑の農作業を手伝う活動です。

佐藤

どんな人が参加しているんですか?

馬場

移住や週末移住に興味がある人、実際にしている人、地区内外に関わらずそうした新しい生活の入り口付近にいる人たちが多いですね。

佐藤

そうなんですね!

馬場

自分で食べる分くらいの小さな畑ではなく、店に出荷する規模の畑の手伝いをするって、すごく楽しいんですよ。収穫したり、箱詰めしたり、梱包したり。

佐藤

ちょっとした職業体験ですね。

馬場

自分が農家になるのは大変だけれど、ボランティアで携わるのは楽しい、という意識が徐々に広がってきているなと感じています。

佐藤

週末移住者の多くが、地元の人との交流を楽しんでいるようですが、やはり、コミュニティとのかかわりは必須なのでしょうか?

馬場

田舎暮らしの目的って、人それぞれですから、必須ではありません。コミュニティにこだわり過ぎず、自由に暮らすのがいいのではないかと思います

佐藤

そうなんですね。

馬場

でも、好きな人がいる場所って、もっと好きになるんですよ。例えば、釣りをメインに楽しんでもいいけれど、地元の人とゆるくつながっているのも、心地良いものだと思います。

佐藤

強制されると嫌だなと思いますが、自由参加、自然発生的なものであればいいですよね。

馬場

とは言え、道端の草刈りをしたり、田んぼの用水路を整備したり、集落で決まった共同作業がある地域もあります。そういうことをめんどくさい、重荷だという文脈で語る人はいますね。

佐藤

そこで暮らしているわけですから、そういう共同作業は避けては通れないですよね。

馬場

PTAの仕事みたいに嫌々参加するとなるとつらいけれど、私は楽しいから参加していて。みんなで作業して、お茶飲んで、わいわいおしゃべりをして帰る。そういう、地域とつながっている感覚が、単純に心地良いんです。

佐藤

そういう、地元の人とのつながりを楽しめる人が、週末移住には向いているのかもしれませんね。

東京での「脳的生活」×田舎での「農的生活」で保たれているバランス

佐藤

今年で週末移住15年目の馬場さんが思う、週末移住のメリットはどんなところでしょうか?

馬場

メリットだと感じることは、年々変わってきました。最初の数年は、異文化交流が醍醐味だなと。同じ時代に生きながら、こんなにも違う生活をしている人たちとかかわりながら、視野を広くするというイメージ。

佐藤

何もかもが新鮮ですもんね。

馬場

そうですね。パラレルワールドを一つ持ったような感覚でした。

佐藤

その後はどう変化しましたか?

馬場

しばらく経つと、地域に役立てる喜びを感じるようになりました。自分の役割がコミュニティのなかで周知されると、自分なりにどうしたら喜んでもらえるかわかってくるんです。

佐藤

自分自身の役割が確立できると、そこにいる意義を感じられそうですね。

馬場

最近は、若い新たな移住者たちの活躍を見るのがうれしいですね。週末移住を始めた当時、6歳だった息子は、もう大学生。近頃は私たち親とはあまり一緒に南房総に行かないのですが、その代わり、友だちを連れていくんです。

佐藤

第二の家に友だちを連れて行けるって、いいですね。

馬場

サーフィンをしたり、釣りをしたりして楽しんでいるみたいです。そこに自分はいないけれど、次世代が田舎暮らしを楽しんで、古い家を使ってくれる。私たちの代を超えて、価値がつながっていく感覚がすごくうれしくて。

佐藤

そうですね。

馬場

まわりでも、週末移住を続けながら、次のキャリアとして地方創生にかかわる仕事をする人が出てきています。ほかにも、仕事につながってお金が生まれるような暮らしはしていないけれど、いい歳の取り方をしているなと思うような人がたくさんいて。

佐藤

人が良い方に変わっていくのを見られるのは、幸せなことですね。

馬場

そうですね。このライフスタイルを選んで今のところは後悔はなく、この生活は悪くないなと思えます。

佐藤

そんなふうに、地元とかそこで暮らす人に深い想いを持てている馬場さん自身がステキだなと思いますよ。

馬場

いえいえ。私が特別に人徳者なわけではなく、長いこと二拠点生活をしている人って、笑ってしまうほどそういうマインドになるんですよ。

佐藤

本当ですか?

馬場

はい。最初は「田舎」というぼんやりした匿名の場所だったけれど、〇〇さん、●●さん、▲▲さんが住んでいる場所というように、どんどん解像度があがってくるんです。

佐藤

なるほど。

馬場

あのおばあちゃんに愛があるとか、あの人が困っているのは放っておけないとか。そうすると、田舎という漠然としたものではなくなってくる。顔を思い浮かべることができる大切な人たちのために、何かしたいという想いが生まれるんです。

佐藤

NPOを立ち上げたのも、そのような想いからですか?

馬場

そうですね。週末移住をし始めた頃は、そういう活動をするだなんて、思ってもいませんでした。

佐藤

馬場さんの本にあった、東京での「脳的生活」、南房総での「農的生活」という言葉が印象的でした。やはり、2つの暮らしがあるから、バランスがとれているという実感はありますか?

馬場

週末移住生活をしていなかったらどうしていただろうと思うくらい、この生活によって、心身のバランスが保たれていると感じています。

佐藤

もう、馬場さんには欠かせない暮らし方なんですね。

馬場

ひたすら草刈りをしている時間とか、まつ毛が焦げるくらい夢中になって焚き火を見ている時間とか、いつの間にか頭も心も静かになっているんですよね。人生は、生産的なことばかりをして生きなくてもいいんじゃないかと、最近よく思います。

佐藤

何かしなきゃ、というプレッシャーを肩から下ろすことも必要ですよね。

馬場

キレイな花が誰にも気づかれずに枯れていく姿などを見ると、生きているだけ、ただそこにいるだけ、命が繋がっているだけで丸儲けだなと思えるんです。

佐藤

週末移住に興味を持っている人に、メッセージをいただけますか?

馬場

個人目線では、迷っているなら動いてみたらいいんじゃなかなと。初動があるとないとでは全然違いますから。

佐藤

そうですね。

馬場

地域目線では、ブームにのって、「何かいいことありそうだから来たけれど、誰も何もしてくれないからやめた」というのはやめてほしいというのは、伝えておきたい。

佐藤

そうですね。それは確かに失礼ですね。

馬場

住むのも出ていくのももちろん自由ですが、やはり、去られると地域は傷つくんです。地域は使うものではなく、作るもの。そういう意識で来てほしい。自分から語りかけていく姿勢があれば、つまらないということはないはずですから。

佐藤

受け身であってはいけないということですね。

馬場

週末移住は、旅行とは違います。田舎を消費の場にしないでほしい。こういうことを言い過ぎると説教臭くなってしまうんですけど(笑)。本音を言うとそういう気持ちです。

佐藤

馬場さんのお話を聞いて、安易に都会と田舎のいいところどりができそうと思っていた自分が恥ずかしくなりました……。週末移住の良さも、果たさなければいけない責任も、どちらも理解することが大切だとわかりました。ありがとうございました!

週末移住をはじめるための費用

エリアや土地や建物の条件によるが、平均的には土地1000万円+家2500万円=総額3500万円程度。35年ローンを組んで月々10万円程度の負担。あるいは、「上物(古屋)あり」の物件を買って総額2000万円程度で収めて、月々5.5万円くらいを支払う。

※ただし、セカンドハウス(=生活の拠点としている現在の住まいの他に、週末などに自分でご利用(居住)する住宅)を取得するための【フラット35】(機構又は旧住宅金融公庫の直接融資を含みます)を二重に借り入れることはできない。

現行では、居住用住宅を二つ以上所有する場合、住宅ローン減税の適用は主として居住する一つの住宅に限られているが、全国住宅産業協会は昨年、国土交通省に対し、二拠点居住のための住宅取得に住宅ローン減税を適用する制度の創設や、住宅ローン減税等の特例措置の適用要件の一つである床面積要件の緩和などについて、令和3年度に税制改正をすることを要望している。

週末移住のために貯金する

「はじめての週末移住」先生の紹介

本日の講師馬場未織
ホームページhttps://www.mb-republic.com/

1973年東京都生まれ。建築設計事務所勤務を経て建築ライター。2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生き物を連れて「平日は東京で暮らし、週末は南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践している。

2011年には「南房総リパブリック」を設立、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務め、「里山学校」を開校したり、南房総エリアの空き公共施設活用、空き家活用などの事業を手掛ける。

はじめての週末移住におすすめの本

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