先日始まった、新しい連載企画「はじめてをはじめる」。第2回目となる今回のテーマは「ワイン」です。
長い歴史を持つイタリアやフランスなどのヨーロッパ諸国はもちろん、最近は日本でもおいしいワインがたくさんつくられるようになってきました。
赤、白、ロゼと、色も味もいろいろあるし、コンビニで買えるお手頃ワインから特別なときに飲みたい高級ワインまで価格帯もさまざま。
いったいどのワインを選べばいいのかわからないし、食事との合わせ方も、そしてマナーも難しそう。
趣味にするにはちょっと敷居が高い……と思っている人も多いかもしれません。
でも、ワインのことをわかったら、一気に世界が広がりそう。
おいしいワインを、よりおいしく味わうためのコツはどんなところにあるのでしょうか。
今回、先生に迎えるのは瀬川あずささん。
ワインスクールの講師のほか、株式会社食レコの代表取締役としても活躍されています。
ワイン初心者のライター・椿が、瀬川さんにワインの基本を根掘り葉掘り聞いてみました。
目次
意外と知らない、赤ワインと白ワインの違い
基本のきから教えてください。赤ワインと白ワインは、何が違うんでしょうか。
まず、材料になるぶどうが違います。赤ワインは黒ぶどうから、白ワインのほとんどは白ぶどうからつくられているんですよ(黒ぶどうから白ワインをつくることもできます)。
黒ぶどうは巨峰、白ぶどうはマスカットみたいなイメージでしょうか?
そうです! それからつくり方も違って、赤ワインは黒ぶどうの果汁と、皮や種を一緒に発酵させてつくります。だから赤ワインには、ぶどうの皮の色素や種の渋みが出るんです。一方白ワインでは、皮や種は取り除きます。果汁だけでジュースをつくって、それをアルコール発酵させます。
おいしそう……。ピンク色がかわいいロゼワインは、赤と白を混ぜているんですか?
ロゼはいくつかの方法がありますが、基本的には黒ぶどうが原料となります。赤ワインと同じようにを果皮を一緒に発酵させ、うっすら色が出たタイミングで果皮を取り除いたり、黒ぶどうをプレスして淡い色調を出したりします。
ロゼには、シャンパーニュもありますよね。
ロゼシャンパーニュは、赤と白をブレンドすることが許されています。白ぶどうでも皮や種のエキスを入れてつくるのが、最近はやりのオレンジワインです。
オレンジワインって、フルーティなものかと思っていました。
こういう新しい種類のワインが、今どんどん出てきています。そこがワインの面白いところでもあるんですよ。
シャルドネだけじゃない、ぶどうの代表的な品種4つ
ぶどうの品種もいろいろありますよね。1つずつご紹介をお願いします!
まずは黒ぶどうの、カベルネ・ソーヴィニヨン。とてもパワフルで力強い味わいです。ワインの渋み成分である「タンニン」のボリュームが多く、重厚で飲みごたえのある赤ワインになります。熟成することでまろやかな味になるんですよ。
黒ぶどうでもう1つ、教えてください。
ピノ・ノワールですね。これはカベルネ・ソーヴィニヨンと違ってタンニンが少なく、上品でエレガントな味わいです。一口飲むと、酸が綺麗に立ってきますよ。超高級ワイン「ロマネ・コンティ」の原料ぶどうとしても有名です。
聞いたことがあります! 白ぶどうといったら、シャルドネが有名ですね。
はい。シャルドネは、産地や気候、ワインのつくり手によって全然違う表情を見せます。冷涼な地域のシャルドネは凛とした酸が感じられますし、暖かい地域のものはボリューム感のあるふくよかな味わいになります。また、ワインを熟成させるオーク樽のバニラのような香りをきれいに反映させてくれるのも、シャルドネの特徴です。
樽にも香りがあるわけですね。白ぶどうのもう1つは何でしょうか?
ソーヴィニヨン・ブランという個性豊かなぶどうです。とても爽やかなハーブ、柑橘の香りがします。地域によって少しずつ違う個性があって、たとえば冷涼な環境のフランス・ロワール地域では、柑橘の爽やかな香りが上品なワインがつくられます。一方ニュージーランドでは、パッションフルーツみたいに華やかな香りに仕上がります。
ぶどうの組み合わせで、ワインの可能性は無限大!
ぶどうの品種によって、ワインの味は全然違ってくるんですね。
そうです。ぶどうの個性を掴んでいると、ワインのことを知るいいアプローチになりますよ。実際には、1つの品種から作られるワインと、いくつかブレンドしてつくられるワインの両方があります。
単独で使われるのはどんなぶどうですか?
たとえばピノ・ノワールは、エレガントで繊細な香りを生かすため、単独で使われることが多いです。逆にブレンドされるのは、ボリュームがしっかりしている品種です。ほかの品種と合わせることで、それぞれの個性が補完されて、より複雑な味わいになります。それから、いくつかの品種をブレンドするのは、栽培のリスクヘッジの意味合いもあります。
いいぶどうをたくさん収穫できる年ばかりではありませんよね。
そうです。ぶどうは自然の産物ですから、その年の気候などで収穫量も味わいも変わります。つくり手さんは、毎年ブレンドの比率を少しずつ変えながら、ワインをつくっているんです。そうすることで味わいを調整できるんですね。
同じところで同じ品種からつくられたワインでも、年によって味が変わるんですね!
地域ごと、国ごと、畑ごとで違うワインの仕上がり

フランスの高級シャンパン、ヴーヴ・クリコ。味わいだけじゃなく、色合いや泡の音まで楽しめるそうです
最近のワインは、ヨーロッパだけじゃなく世界中でつくられていますよね。
そうですね。エリアごとにスタイルが違ってきますから、品種の個性と同じく、産地の個性を知るのも大事です。
エリアごとに、どんな違いがあるんですか?
まず、伝統があるのはヨーロッパ。歴史があるだけに、それぞれの土地の気候・風土をワインにしっかり反映させているのが特徴です。たとえばフランスのブルゴーニュ地方なら、隣の畑同士でも違う表情を持ったワインがつくられています。とくにヴィンテージに高い価値がつくのは、ヨーロッパのワインが多いですね。
アメリカやチリのワインは、コンビニやスーパーでもよく見かける気がします。
オセアニアやアメリカ、チリは、比較的新しい産地です。それぞれの土地の個性を反映しつつ、高い醸造技術を持っていて、安定した味わいをつくりあげています。その年の天候などにあまり左右されない、安定感が特徴です。
日本ワインはどうでしょうか?
日本でも素晴らしいワインがたくさんつくられていますが、実はワイン用ぶどう栽培には高度な技術が求められます。ぶどうは繊細で病気になりやすいので、欧米のように風通しがよく空気が乾燥している環境が栽培に適しています。逆に、日本のように雨が多く湿度の高い地域は、ワイン用のぶどうを育てるのが少し難しいんです。
日本ワインのつくり手さんは、そこをうまく克服しているんですね。
そうですね。皆さん、栽培エリアを厳選したり、毎日天気予報を見て柔軟に収穫タイミングを決めたり、雨よけ対策をしたりして自然と戦いながら、高い技術力を生かしておいしいワインをつくられています。
初心者が“おうち時間で”ワインを楽しむコツ
初心者が、家庭でワインを楽しみたいとき、何から始めたらいいでしょうか。
まずはワインショップに行って、自分の口に合いそうなワインを買ってみましょう。わからないことは店員さんに聞いたら、いろいろ教えてくれるはずです。あるいは、レストランやワインバーで飲むのもいいですね。そうやっていろいろ飲んでみて、自分好みの産地や品種を1つ見つけてください。それを軸にワインを探していけるようになります。
軸を見つけるのが第一歩ですね!
そうですね。たとえばシャルドネがいいなと思ったらシャルドネを軸に、オーストラリアのワインがおいしいと思ったらオーストラリアを軸に、選んでいきましょう。
1つでも軸があると、一気に探しやすくなりますね。
あとは、ワインのエチケット(ラベル)を見るのも一手です。エチケットには、ワインのつくり手のセンスが反映されていますから、その価値観が自分に合っていればワインも口に合うと思います。
なるほど。ワインは価格帯も広いですが、高いワインと安いワインって、どこが違うんでしょうか?
値段の高いワインは、複雑味があって味わいの余韻が長いです。産地の気候や個性がしっかり表現されているからですね。逆に安いワインは大量生産されたものが多く、味わいが安定している一方で、個性は少ないです。
ワインの保存方法にコツはありますか?
開ける前なら、ものによって違いますが13〜15℃くらいの場所で保存するのがベストです。それからある程度湿度があって、暗いところ。乾燥しているところだと、コルクがボロボロになって開けにくくなっちゃうんです。また開けた後は、その日のうちでなくとも、早いうちに飲みきってください。
ワインは、グラスで味がガラッと変わる!
初心者向けのワイングッズで、おすすめを教えてください!
まずはワインを開けるときに使うソムリエナイフと、ワイングラスをそろえましょう。グラスだけでも、少し背伸びしていいものを買っておくのをおすすめします。グラスによって、ワインの表情はガラッと変わりますから。
そうなんですか! ワイングラスは、ワインの味によって使い分けるものなんですか?
そうです。まずそろえておきたいのは、一般的なグラスより少し大きい「ボルドー型」と、より丸みのある「ブルゴーニュ型」の2つ。ワインの味わいによって使い分けるレストランも多いですね。たとえばRIEDELさんなど、有名なメーカーのショールームに行くとたくさん置いてありますよ。
集めはじめたら止まらなくなりそうです。おいくらくらいのグラスがいいんでしょうか。
カジュアルなものだと2000円くらいからでしょうか。ハンドメイドのものは値が張ります。メーカーによってこだわりポイントが違うので、選ぶのも楽しいですよ。
食事との相性は「色」と「産地」がカギ
食事との相性についても教えてください。白ワインはお魚、赤ワインはお肉、というざっくりしたイメージはあるんですが……。
胡椒を効かせてスパイス感を出しているステーキなら、スパイシーな赤ワインがよく合います。白身魚のカルパッチョにレモンを絞ると、柑橘のニュアンスがあるソーヴィニヨン・ブランがあいますね。でも、実はお肉に赤ワイン、お魚に白ワインと決まっているわけでもないんです。
えっ、そうなんですか。
白ワインをお肉に合わせることもよくありますよ。たとえばチキンにクリーム系のソースを合わせた料理なら、赤ワインよりもコクのある白ワインがいいですね。お魚でも、カツオのたたきなら白ワインよりも鉄分のニュアンスを持つピノ・ノワールをおすすめしたいです。
食材そのものよりも、味つけや調理の仕方によって変わるんですね。
色でも香りでも、同じ要素を持っていると合わせやすいです。わかりやすいのは、色で合わせることです。チキンやカツオのたたきの例もまさにそうですね。ロゼワインをピンク色の豚肉に合わせたりもします。これを「同調のマリアージュ」と言います。
かっこいい! 産地を合わせるのはどうですか?
産地を合わせるのも、とてもおすすめです! たとえばイタリアンレストランでナポリピッツァを食べるなら、カンパニア州の華やかなワインを合わせましょう。和食のときにはぜひ、日本ワインを選んでみてください。
どんどん新しいことが出てくるのが、ワインの面白いところ
瀬川さんが、ここまでワインを極めたきっかけは何だったんですか?
私はもともと食べることが大好きで、食べ歩きを趣味にしていたんです。いろんなお店に行く中で、もっとワインを深く楽しみたいと思うようになって、ワインスクールに通いはじめました。
すごい! その頃は違うお仕事をされていたんですか?
施工会社で秘書の仕事をしていました。クライアントに飲食業の方々が多かったので、その人たちと対等に話せるようになりたいと思ったこともきっかけですね。そして一度勉強しはじめたらハマってしまって。ワインの仕事をメインにやるようになって、今に至ります。
好きなことを仕事にするまで極められるのはかっこいいです! ワインのいちばんの面白さは、どんなところにありますか?
ワインは、どんどん新しいことが出てきて、どれだけ学んでも極められないところですね。ワインにハマると、人生が変わるんですよ。私は仕事も変わったし、周りの環境も変わります。ワインスクールにも、OLから主婦、大企業の重役までいろいろな人がいます。違う世界の人たちが、ワインという軸で集まっているので面白いです。
年齢も職種も違う人たちが仲良くなると、価値観が変わったり、世界が広がりそうですね。
人生をかけて追求したいと思えるような、不思議なエネルギーがワインにはあります。これまでと違うことにチャレンジしたいときや、少し別の人間関係を築きたいとき、また何かステップアップしたいときにも、ワインはおすすめの趣味です。
ワインの世界の奥深さを垣間見ました。どうもありがとうございました!
「ワインを始めるときの費用」
好きなワイン | 2000円〜 |
ソムリエナイフ | 1000円 |
ワイングラス | 4000円〜 |
「はじめてのワイン」先生のご紹介
ワインインストラクター | 瀬川あずさ |
オフィシャルブログ | 瀬川あずさオフィシャルブログ |
ワインスクール レコール・デュ・ヴァン | 瀬川さんにワインを教われる講座はこちら! |
はじめてのワインにおすすめの本
今回お話を伺った瀬川あずささんが監修した本。ワインの基礎がわかる入門書とも言われており、原料のブドウを「イケメン」に擬人化しながらの説明はわかりやすく面白いです。初心者でも比較的購入しやすいワインを厳選して紹介しているので、この本を読めばワインの基本がわかります。