アイルランドのソウルスポーツ!8万人が熱狂する「ゲーリックフットボール」の魅力に迫る【マイナースポーツ特集#50】

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アイルランドのソウルスポーツ!8万人が熱狂する「ゲーリックフットボール」の魅力に迫る【マイナースポーツ特集#50】

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アイルランドで生まれた「手を使うサッカー」と呼ばれるゲーリックフットボール。本国では1試合で8万人を動員するほど、国民的に支持されるスポーツです。

そのゲーリックフットボールにおいて、女子日本代表として活躍するのが中村尚子さん。2017~19年のアジア大会に出場し、19年の大会ではMVP賞を受賞した日本ゲーリックフットボール界の第一人者です。現在はJapanGAA(日本ゲーリック体育協会)の副会長兼クラブ開発責任者を務める中村さんに、ゲーリックフットボールの魅力と未来についてお伺いしました。

ゲーリックフットボールはアイルランドのソウルスポーツ

——ゲーリックフットボールとはどんなスポーツでしょうか?

中村

アイルランドにある4つの国技のうち、もっとも人気がある国民的なスポーツです。日本でいうなら、野球とサッカーの人気を足したような存在といえます。

2チームに分かれて得点を競う、攻守混合型のゲームです。コートの広さはサッカーと同じか少し広めくらいで、ルールは「手を使えるサッカー」という表現が一番しっくりくると思います。

——手を使えるサッカー!サッカーでいうところのドリブルやパスに違いはあるのでしょうか?

中村

使うボールはサッカーボールに近い大きさで、完全な球体のボールです。これを手で持って走るのですが、持ったまま走れるのは4~5歩くらいまで。持って走った後にはなんらかのアクションを起こさないと、再び手に持ったまま移動はできません。

——アクションにはどんな種類があるんですか?

中村

アクションは大きく分けて「バウンス」「ソロ」「パス」の3つがあります。まず「バウンス」は、バスケのドリブルのように地面に弾ませるアクションです。一度弾ませればまた持って走れますが、2度続けてバウンスをしてはいけません。

次の「ソロ」は、リフティングのように落としたボールをつま先で蹴り上げて自分で受け取る動きです。ソロを一度やるとバウンスの回数制限がリセットされてまた使えるようになります。

——パスはボールを投げてはいけないと聞きました。どんなアクションなのでしょう?

中村

パスには2種類あって、ひとつが「ハンドパス」。おっしゃるとおり、ゲーリックフットボールではボールを投げてはいけないので、片手で持ったボールをもう片方の手で打って味方にボールを渡します。もうひとつが手に持ったボールを落として蹴る「キックパス」です。

——1チームは何人で、交代の制限などはありますか?

中村

そのあたりのルールは、アイルランドのリーグとそれ以外の地域で異なっています。アイルランドのルールでは、フィールドに出ている選手は15名。基本的には前後半30分ずつの計60分の間に7人まで交代できます。

その他の地域、たとえば日本が属するアジアですと、試合時間は前後半7分ずつの計14分間で、フィールドプレイヤーは9名。交代に制限はなく、バスケットボールのように同じ選手が何度でも出入りできます。

——地域によって違いがあるんですね!

中村

また男女によってもルールに違いがあります。男性は地面に落ちたボールを手で拾えず、蹴り上げないといけないのですが、女子は手で拾ってもOK。ショルダータックルは男性はできても、女性は禁止とされています。

こういったルールの違いは、プレイ人口が少ない地域でも誰もが楽しめるようにと、各エリアの協会で調整されているからです。

アイルランド国内だけで2,400クラブ!文化に根付いた国民的スポーツ

Photographer: Sho Sato

——ゲーリックフットボールの歴史について教えてください。

中村

諸説ありますが、400年以上前にアイルランドで生まれたとされています。アイルランドには「ゲーリック・ゲームス」と呼ばれる4つのスポーツがあり、その中でもっとも人気が高いスポーツがゲーリックフットボールです。日本でのドッジボールのように、どの小学校でもゲーリックフットボールをプレイしており、誰もが一度は触れたことがあります。

——ゲーリックフットボールが盛んな地域はどのあたりになるんでしょうか?

中村

ダントツはアイルランドです。アイルランドには全国に2,400以上のクラブがあると言われています。アイルランドの面積は北海道と同じくらい。人口も500万人弱と、北海道より少し少ないくらいです。各町内に1つはクラブがあるというようなイメージですね。

次に多いのは、アイルランドから多くの移民が移り住んだアメリカです。ニューヨークがもっとも多く、41クラブ。その他の地域を合計すると123クラブあります。

——アメリカで人気なんですね!その他の地域ではいかがですか?

中村

その後はイギリス、ヨーロッパ。アジアは22のクラブがあり、日本には私が所属しているJapanGAAひとつです。アイルランド以外の国には、合計して400ほどのクラブがあると言われています。

ゲーリックフットボール+アイリッシュパブ=アイルランド人のライフスタイル

——アイルランドだけで2,400クラブもあるとは驚きです。国民が好きなスポーツという枠を遥かに超えていますね!

中村

ここがアイルランドの文化と密接に繋がっている面白いところでして。各地域のGAA(ゲーリック体育協会、クラブ的な存在)は地域のコミュニティとしての役割も強く、多くのアイルランド人はどこかのGAAに所属します。別の地域に引っ越したなら、まずその地域のGAAを探します。スポーツをせずに、GAAに所属している人もいます。

日本など他の国のスポーツクラブはスポーツのために集まるコミュニティですが、GAAは社会的なコミュニティとしての役割が強いため、運営もすべて非営利で行われています。なので国民的な大人気スポーツですが、プロ選手はひとりもいないんです。

——日本にいると想像できないような仕組みですね!

中村

GAAだけでなく、アイリッシュパブもアイルランド人の生活に欠かせないものです。アイルランド人はとにかくお酒が好きで、ゲーリックフットボールはギネスビールを飲みながら観戦し、練習が終わったらパブでギネスビールを飲み、会議はアイリッシュパブで行うというくらい、切っても切り離せない関係です。

アイリッシュパブはアイルランド人を迎え入れる先であり、コミュニティであるという意識がとても強いんですね。移民先などで同胞を孤立させないよう、引っ越した先にアイリッシュパブがなければ自分に店を開く責任があるという説があるくらいです。

——生活だけでなく、人生に密着していますね!

中村

引っ越した先ではまずアイリッシュパブを探し、そこで友だちを作りGAAを紹介してもらうという流れが世界各地で生まれてきたようです。。特にインターネットやSNSが無い時代には、アイリッシュパブがアイルランド人を繋げる重要な役割をもっていたんですね。

今でもゲーリックフットボールとアイリッシュパブは、世界中どこの地域においても、アイルランド人の心の拠り所になっています。

決勝戦は8万人以上が観戦!世界では8つの地域で大会を開催

——大会の仕組みについて教えてください。

中村

アイルランドとそれ以外の国では仕組みが異なります。アイルランドには数え切れないくらいの大会やリーグがありますが、中でも一番大きな大会が、年1回夏に行われる「オールアイルランドチャンピオンシップ」です。アイルランドにある32郡それぞれで選抜された代表チームがトップを目指して優勝を競う大会です。

——まさに全国大会ですね!決勝は盛り上がりそうです!

中村

決勝戦はダブリンにあるクローク・パークで行われ、日本の高校球児が甲子園を目指すように、各郡の代表はクローク・パークを目指します。決勝の日は8万人を収容するクローク・パークが満員になり、さらに各地のアイリッシュパブに集まってみんなで観戦するほど、国内最大級のお祭りになるんです。

——その他の地域ではいかがでしょう?

中村

世界的には、8つに分割された地域それぞれで大会が開かれています。アメリカ、イギリス、オーストラリアなどで規模の大きい大会が開催されます。

——どのような分割になっていますか?

中村

ニューヨーク、ニューヨークを除くアメリカ、イギリス、イギリスを除くヨーロッパ、カナダ、オーストラリア、中東、アジアの8地域です。

——世界中に組織が広がっているんですね!

中村

また世界にある400のクラブを対象とした「ワールドゲームス」という世界大会も3年に1度開かれています。前回は2019年に行われ、100チーム1,300人が集まる大きな大会となりました。私もアジアチームとして参加し、中国やマレーシア、韓国のメンバーとチームを組んで試合に参加しています。

——競技としての大会と国際交流も兼ねてるんですね!

中村

言語や文化の壁を越えて、一つの目標に向けてチームで力を合わせてプレイしたことは、本当に貴重な経験でした。その時のチームメンバーとは今でも連絡を取り合っています。

面白そうでクレイジー!出会った翌月に国際大会へ出場

——中村さんはどんなきっかでゲーリックフットボールを始めたのでしょうか?

中村

今思えば、ただただご縁があった、という流れでした。一度だけ会ったことがある知人の結婚式の二次会に参加することになったんです。そうしたら、その知人がゲーリックフットボールをやっていたんです。会場で知り合った方にゲーリックフットボールの動画を見せていただいたのをきっかけに、翌週にはすでにピッチの上に立っていました(笑)。

——思い切りがいいですね!なぜすぐに始めようと思えたのでしょう?

中村

ちょうどその時、何か新しいことを始めたい、新しい出会いが欲しいと思っていた時期だったんです。共通の友人に誘われて結婚式の二次会に参加したのもそのためでした。

小学校の時はサッカー、中高はテニス、大学でダンスとフットサル、ずっと運動はやっていました。それなので動画を見せてもらったときに「自分が持ってるスキルでできそう」って思えたんです。面白そうでクレイジーなスポーツ。やったら上手くなるし好きになるという予感がありました。

——いいタイミングが重なったんですね。

中村

また、しっかり生の英語を勉強し直したいと思っていたのも重なりました。チームには外国人がたくさんいるので、勉強にもちょうどいいなと(笑)。いろんな要素が重なって一歩を踏み出した感じでしたね。あの日に結婚式の二次会に行かなければ一生ゲーリックフットボールには出会わなかったかもしれないので、運命的な出会いだったと思います。

——実際にプレイしてみていかがでしたか?

中村

チームに入ったのが10月だったんですが、11月にアジア大会を控えていたので、ちょうど追い込みの時期だったんです。なのでピリピリした緊張感のある全力ムードが漂っていて、正直「ヤバイ、怖い!」と思ったのが最初の感想です。社会人になってからあんなに真剣にスポーツに取り組んでいる環境に出会うことはなかったので、みんなの本気が伝わってきてとても新鮮でした。

——それは迫力がありますね!その後はスムーズにチームに入れたんでしょうか?

中村

はじめは「初心者の私が入るなんてとんでもない!」と思っていたのですが、そんな私に声をかけてくれた人がたくさんいました。「一緒にやろうよ、来月バンコク(アジア大会の会場)に行ける?」と受け入れてくれて、その週の土日には早速自主練に参加していましたね。その勢いのまま職場に休みを申請して、アジア大会にも参加しています。

——勢いがすごい!初めての国際試合はどんな成績でしたか?

中村

JapanGAAの女子チームはAとBの2つがあって、私はBチームで参加しました。結果としては参加賞のようなものでしたが、その中で勝った試合もあって、その試合でMVPをいただけたんです。その時の審判をしてくださったアイルランドの方とは今でも連絡を取り合っていて、どんどん広がっていく繋がりに「もうやめられないな」と思いました。

言葉を越える友情を育む環境がGAAの魅力

Photographer: Sho Sato

——普段の練習はどこでされていますか?

中村

東京都内で、主に2つの場所で練習しています。ひとつは港区の小学校の校庭、もうひとつは品川シーサイド駅近くにある八潮北公園内の野球場を借りています。シーズンや予約状況によって変わりますが、基本的には週1回。秋のアジア大会が近づくと2~3回に増え、自主練を強化するメンバーもいます。

——現在のJapanGAAのメンバー構成を教えてください。

中村

アクティブなメンバーは50名ほど。大きな大会に出場するときは40名くらいで飛行機に乗って参加します。男女比は男子60%、女子40%くらい。女子チームは日本人が85%くらいの割合を占めています。

アイルランドでのプレイ歴がない現地民を「ネイティブプレーヤー」と言うんですが、日本のネイティブ率の高さは世界的にもめずらしく、アイルランド本国のGAAからも注目されています。

——中村さんを熱中させた今の環境において、いいと感じるところはどこでしょうか?

中村

コミュニティとしてとても素晴らしいですね。英語ができる人もできない人もお互いに補い合いつつ、言葉を越えた友情を育んでいます。GAAはアイルランド人にとってのコミュニティとして重視されていますが、日本人にとってもその側面が強いですね。自分でプレイはしなくても応援に来てくれる方も多くて、クラブとしても魅力的だなと思っています。

——そんなに熱中できるゲーリックフットボールですが、普段の生活で出てしまうクセのようなものはありますか?

中村

GAAに入ったからこそですが、とにかくパブと仲良くなれます(笑)。練習が終わったらパブ、イベント後はパブと、お酒が生活に重なるようになりました。

もうひとつ、アイルランドにはセントパトリックスデーというお祭りがあり、その日は緑色のものを身につけるという風習がありまして。そのおかげで周囲に緑色のものがどんどん増えてきました。

あとはスポーツ好きな人に知り合ったらゲーリックフットボールを宣伝しまくるくらいでしょうか(笑)。

誰もが知るスポーツへ、目指すは日本国内での大会開催

——ゲーリックフットボールの普及に向けて、どう盛り上げたいと思っていますか?

中村

今年からクラブ開発責任者という役割ができまして、そこに選出していただきました。今のところ3つの方針を考えています。

まずは「認知度を上げる」こと。ゲーリックフットボールだけでなく、アイルランド文化も含めてとにかく知ってもらうことです。プレイはしたことがなくても、誰もがどこかで名前を聞いたことがあるという状態を目指します。

——確かに裾野を広げるとなると、まずは認知度ですもんね。2つ目はどんな方針でしょうか?

中村

次に「子どもたちへの教育」です。最近では渋谷区の小学校と交流を行っています。アイルランドはハロウィンの発祥の地と言われていますが、渋谷はハロウィンに絡んだ問題もあるので、正しいハロウィンの知識を教える講演会や、それに繋がるゲーリックフットボールの紹介をし、ゆくゆくは体験会に繋げていきたいと思います。

——ハロウィンと絡めるのはいいアイディアだと思います!3つ目の方針を教えてください。

中村

3つめは「マイナースポーツ同士の繋がり」です。日本においてマイナースポーツと呼ばれるスポーツ同士のコラボを通じて、マイナースポーツ界を盛り上げていきたいと思っています。

これまでもオーストラリアンフットボールタグラグビーラピッドボールHADOSASSENパデルといったスポーツとお話をさせていただいています。

——マイナースポーツ同士のネットワークが広がっているんですね。

中村

JapanGAAは今年で25週年を迎える中、各方面に繋がりをもつ地盤があります。アイルランド大使館とも繋がっているので、例えば公的な場所を借りたり、外国人が多く参加するプレイ環境を提供したりと、マイナースポーツ界にいろいろ貢献できると考えています。

——クラブ開発責任者に就任されたとのことですが、現時点での普及の手応えはいかがでしょうか?

中村

最近ではツイッターを通していろいろな繋がりができたり、友だちの友だちを通じてメンバーが増えてきたりと、広がりを感じています。実際に6月5日に開催した「日本GAA国際スポーツデー」のイベントには、過去最高となる180名の方に参加いただきました。そのうち30名以上のお子さんが体験会に参加してくださり、大盛況の一日となりました。

今後も運動したい、新しいことに挑戦したいという方に、スポーツを通じて楽しんでもらえる場を提供していきたいと思います。

——最終的に目指す形はありますか?

中村

まずは誰もが名前を聞いたことがあるという段階まで持っていくところですね。認知度が上がればプレイしたいという方も増えていくと思いますので、全国にクラブが広がっていくと面白いなと思います。いずれはゲーリックフットボールの大会を日本で開きたいですね!

体を動かすのが好きな人大歓迎!一緒に汗を流して人生を豊かにしよう!

Photographer: Sho Sato

——ゲーリックフットボールに興味が出たらどのように始めればいいでしょうか?

中村

まずは遊びに来ていただくのが一番だと思います。大人から子ども、おじさまおばさままで、いろいろな職種・国籍・性別の方が参加している雰囲気を体験していただきたいです。

JapanGAAのSNSや、私のツイッターまでご連絡いただけましたら、すぐにお返事いたします!

JapanGAA ホームページ

https://www.japangaa.org/homejp

JapanGAA Twitter

https://twitter.com/JapanGAA

JapanGAA Instagram

https://www.instagram.com/japangaa/

中村尚子さん Twitter

https://twitter.com/NJapangaa

——ゲーリックフットボールにはどんな方が向いていますか?

中村

運動が得意じゃないけれど体を動かすのは好きという方、自信はないけどスポーツをやってみたいという方、すべての方に門戸を開いています。社会人コミュニティとしての役割もありますので、友だちが欲しい、新しいことを始めたいという方にもぴったりだと思います。

外国人との交流や英会話、アイルランド文化に興味がある方も大歓迎です。

——初めてのプレイに準備するものはありますか?

中村

運動ができる格好なら何でも大丈夫です。フットサルやサッカーの格好が近いイメージですね。スパイクがあるといいですが、スニーカーや運動靴でプレイするメンバーもいますので、屋外でスポーツできる服装なら大丈夫です。

グローブもあるといいですが、最初は貸し出ししますのでご安心ください。

——最後にゲーリックフットボールに興味がある方へメッセージをお願いします。

中村

私たちは文化、国籍、言語、性別、年齢問わずどなたでも大歓迎しています。運動が苦手でも得意でも、私たちと一緒に汗を流して楽しむことで、より豊かな人生を手に入れていただけたらと思います。とにかく是非一度、私たちの練習にお越しください!

ゲーリックフットボールを始めるのにかかる費用

スポーツウェア

3,000円~

サッカー用スパイク

5,000円~

ゲーリックフットボールを観ながら飲みたいビール

ギネスビール

1本300円~

貯金をして挑戦する!

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