トップ選手のライブ配信視聴者は200万人!中国将棋「シャンチー」の人気に迫る【マイナースポーツ特集#43】

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トップ選手のライブ配信視聴者は200万人!中国将棋「シャンチー」の人気に迫る【マイナースポーツ特集#43】

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中国を発祥とする「シャンチー」は、別名中国将棋と呼ばれる対戦型ボードゲームです。覚えやすいシンプルなルールと短時間で決着がつく手軽さから、全世界で数億人のプレイヤーに愛されていると言われています。

そのシャンチーのアジア大会において、史上初めて中国・ベトナム籍以外の選手として入賞を果たしたのが中村千鶴選手です。得意とする中国語を武器に、本場のトッププロとも交流。日本国内での活躍に止まらず、世界的にも注目を集めるプレイヤーのひとりです。

そんな中村選手に、世界におけるシャンチー人気と競技としての魅力、今後の展望についてお聞きしました。

シャンチーは戦争を模した対戦型ボードゲーム

——シャンチーとはどういうゲームなのでしょうか?

“中村”

一言でいうと戦争を真似たゲームで、日本の将棋のように2人で対戦するボードゲームです。交互にコマを進めていって、相手の王様を取ることが最終目標です。真ん中にある大きな川を挟んで、先手の紅側と後手の黒側が向かい合います。

——日本将棋のように、取ったコマは使えるのでしょうか?

“中村”

いえ、取られたら終わりです。そのためひとつのコマの価値が非常に高いゲームだと思います。ただし攻めるためのコマがあればいいというわけではなく、最強のコマである「車」を持っていても、相手が守りのコマを全部持っていれば攻めきれず、高い確率で引き分けにされてしまいます。

——引き分けがあるんですね!

“中村”

相手が引き分け狙いに徹すれば、プロでも勝ちきれない場合があります。最初から引き分け狙いの開局(序盤のコマの動かし方)があり、無理に攻め込むとミスをして負けてしまう場合もあります。シャンチーは優勢になってから勝ちきるまでがとても大変なゲームなんです。

——引き分け狙いも立派な戦術なんですね。

“中村”

はい。大会では勝ちで2ポイント、引き分けで1ポイントとなるので、仮に全局引き分けを狙えるようになると、それだけで勝率5割がキープされます。その上で相手のミスを拾って勝てるようになると、勝率は一気に傾きますね。

——引き分けを狙うのは主流の戦法なんでしょうか?

“中村”

これは性格にもよりますね。私は乱戦になってコマの交換をいっぱいしたとしても、負けなければいいと思うタイプです。しかしシャンチー仲間の中には「勝てないと意味が無い」と考える選手もいますし、無理に思えるような攻撃がハマってどんどん勝つような選手もいます。

——1回のプレイ時間はどれくらいでしょうか?

“中村”

快速と呼ばれるルールだと持ち時間10分で、1回指すと10秒追加。お互いに10分ずつ持って打つごとに時間が増えるので、一局30分くらいですね。30分+10秒の場合は1時間半くらいになります。国際大会だと1時間+30秒で、トータル2時間半くらい。私が指した中で一番長かったのは3時間半くらいでした。インターネットでは快速戦が主流です。

——大会によって違うんですね。

“中村”

選手によっても得意な時間が違いますね。私は国際大会に出るのを目標にしていたので、1時間+30秒の持ち時間が一番パフォーマンスを出せます。私の先生である鄭一泓プロがいる棋院で遊んでいる子どもは3分切れ負け、トータル6分で一局遊んでいました。

——そんなに短いんですね!

“中村”

日本将棋をやる友だちに聞いたところ、お昼休みに気軽に何局もさせるのが魅力に感じていると言っていました。

——一発逆転できる運の要素はありますか?

“中村”

レベルが同じ同士なら、乱戦の中でミスを誘って逆転につながることはありますが、レベル差がある相手に引き分けを取れることはあっても、逆転はほとんどありません。基本的には強い人が勝つ、運の要素がないゲームだと思いますね。

出会いは中国留学の公園

——中村さんはどんなきっかけでシャンチーに出会ったのでしょうか?

“中村”

大学時代に語学留学で中国に1年行った時、公園で将棋のようなもので遊んでいる人を見たんですね。上海の友だちに何をしているのか聞いてみところ、シャンチーという中国の将棋だと教えてくれました。

——出会いは公園だったんですね。そこからすぐに始めたのでしょうか?

“中村”

留学の後しばらくは、シャンチーのことは頭にはありませんでした。大学卒業して社会人になった後に、ふとしたことでシャンチーのことを思い出して、日本でもやっている人がいるのかなと思っていろいろ調べてみたんです。

——始まりはいきなりですね!

“中村”

そうですね(笑)調べてみたら日本シャンチー協会が主催する、日本代表選手を育成する「トップアスリート育成プログラム」という制度があるとわかりました。私は中国語を通じていろいろな国の人と交流をしたいと思っていたので、シャンチーを通じた交流ができるかと思い、プログラムに申し込んでみたのが始まりです。

——行動が早いですね!実際に始めた後はどうなりましたか?

“中村”

元々日本将棋やチェスをまったく知らなかったのもあり、最初の1年は全然勝てなかったんです。練習対局でも誰にも勝てないまま1年目は終わっちゃいました。

——全然勝てない中で辞めようとは思わなかったんですか?

“中村”

勝ち方がわからなかったので、負けることにも疑問がありませんでした。勝ち負けに興味がなかったのもありますが、負けても悔しくないし勝てないのが当たり前でしたね。ただ自分がそれとなく指した手で相手が「ここはきつかったよ」と言ってくることがあるので、悔しい、辞めたいという気持ちよりも「シャンチーって不思議だな」っていう思いが強かったです。

——不思議なキャリアの始まりですね!

“中村”

普通の人はシャンチーが面白いから続けるのかもしれませんが、私は国際大会に出て、中国語を通じていろんな人と交流したいというところからスタートしたので、勝ち負けへのこだわりがなかったのかもしれません。

——交流の目標は叶っていますね!

“中村”

はい。でもシャンチーの大会に出てくる人はみんなシャンチーに真剣に取り組んでいる人ばかりなので、そういう人たちについて行けるようにシャンチーの勉強は常に真剣にしていました。中国においてシャンチーはすごく重要な文化のひとつなので、シャンチーを大切にしている人たちと交流をしたかったのも大きいです。

——そうしてシャンチーの勉強に力が入ったんですね。

“中村”

そうですね。また私がお世話になっていた中国語の先生から「せっかく中国語ができるようになったんだから、誰もがやっている中国文学の研究などではなく、誰もやっていないような分野で活躍して欲しい」とおっしゃったのも影響は大きいです。

中国ではほぼ全員がルールを知る国民的ゲーム

——日本における競技人口はどれくらいでしょう?

“中村”

試合に出るほど頑張っている人は少ないですね。はっきりは分かりませんが、実際に日本でシャンチーができる人、遊べる人は結構いると思います。

——発祥の地である中国ではどんな存在なのでしょうか?

“中村”

中国の方はほぼ全員できると思います。日本だと将棋を指せるのはクラスでも5人くらいとかだと思いますが、中国でシャンチーはルールを知らない子がクラスに2~3人いるかどうかくらいだと思います。中国で知り合った友だちにシャンチーの話をすると「今度指そうよ」と誘われますね。私が知り合った方の中には、指せない人はいませんでした。

——世界的にはどうでしょうか?

“中村”

中国とベトナムでの人気は高くて、シャンチーのプロ棋士として食べていけます。この2国は他の国に比べて強すぎるので、国際大会ではノンチャイニーズ・ノンベトナミーズ部門という、中国、ベトナム系以外の選手があらそう部門が設立されています。その部門があることで中国とベトナム以外の国の選手が表彰される機会ができるので、モチベーションにしている選手もいます。ただ女子だけノンチャイニーズ・ノンベトナミーズ部門が無いのが謎です(笑)

——アジアの2ヶ国が突出しているんですね。

“中村”

はい。他のスポーツやゲームでは世界選手権がもっともレベルが高いと思われますけど、シャンチーは中国・ベトナムの国内が一番強く、続いてアジア、世界の順番です。世界選手権ではアジアのトッププレーヤーに加え、中国・ベトナム系を中心とした世界の強豪選手が多く参加するため、大会も非常に盛り上がります。

遊びの心を取り戻し、史上初の日本人アジア大会入賞

——強豪2国とそれほどレベルの差がある中、中村さんは2017年にアジア大会で入賞(5位)されています。

“中村”

あれは運も良かったですし、体調もよかったですね。国際大会に行くと体調を崩しがちなんですが、このときはとても良かったです。

——入賞までの道のりはスムーズだったんでしょうか?

“中村”

実はそうでもなくて。2014年に初めて国際大会に出たときに、中国系のマレーシアの選手と台湾の選手に勝てて、結構いけるかもと思ったんですね。しかしそれまでアジアの中では日本がいつも最下位だったのに、この年に日本が最下位ではなくなってしまったので、他のアジアの国が力を入れてきてしまい、2015年の大会では1勝もできませんでした。

——厳しい滑り出しですね。翌年はどうだったんでしょう?

“中村”

そこから1年間は1日13時間くらい、ひたすらに勉強をし続けました。もうノイローゼになるくらい勉強を重ねてから2016年のアジア大会に臨んだんです。この試合は私にとっても本命の大会でした。

——準備万端ですね!結果はどうでしたか?

“中村”

1試合目は強豪の台湾選手から引き分けを取れたのですが、その後はマレーシアの気候が合わなかったのか体調を崩してしまい、結局引き分け2つの他はすべて負けてしまいました。やる気があっただけにショックでしたね。正直ちょっとシャンチーがイヤになった部分もありました。

——それはショックですね……。しかし、翌年はそのどん底から大躍進です。何かきっかけはありましたか?

“中村”

2016年の大会は、中国のプロや元プロの方もゲストとして見に来ていました。そのうちのひとりの元プロが私の対局を見て「君はもう勉強は十分。あとは楽しく対局しなさい」と言ってくれたんですね。それまでは国内でシャンチーを直接指す機会が少なかったんですが、ちょうどその頃からインターネット対局が盛んになってきました。それなので、そこから1年は勉強をやめて、ひたすら対局に費やしました。

——思い立ったら徹底的ですね!

“中村”

1日8時間くらい、ずっとインターネットで快速戦の対局を繰り返しましたね。復盤(対局内容の復習)も10局に1局するかどうかくらい。本当に遊びのような感覚でやっていました。2017年のアジア大会の前も、今までだったら読んでいた本を復習していたんですが、それもしないくらい勉強から離れていました。

——かなり思い切った切り替えをされました。その結果が2017年なんですね。

“中村”

この年は勝ち負けよりも、前年の大会からイヤになりかけていたシャンチーを辞めないこと、大会に参加することが目標という感じでした。結果的に全く気負わずに指すことができて、勝手に成績がついてきてくれた感じです。シャンチーのアジア選手権では現在まで、私以外ノンチャイニーズ・ノンベトナミーズで入賞した選手はいないので、大会後にはアジア連合から賞をいただけました。

トッププロから直接指導!「シャンチーのプロは人格的にも素晴らしい人ばかり」

——普段の練習はどのようにされていますか?

“中村”

対局はインターネットですね。打ち終わった棋譜をパソコンの分析ソフトに入力して分析します。初めて勉強する開局なら本を読んで、それからプロの対局棋譜で変化を勉強、パソコンに入力して相手の反応を見て、学んだ流れをインターネットの対局で試します。また殺法(日本将棋でいう詰め将棋)のスマホアプリを使って、電車の中で勉強することも多いです。

——指導を受けることは?

“中村”

先生のビデオ講座を聞いたり、先生が課題として出した局面に対して自分と相手の変化をチャットで答えて、先生に添削してもらったりします。またパソコンで分析してもわからない対局があった場合、先生やプロの友だちが復盤を手伝ってくれたりします。

——先生から指導を受けてよかったことはありますか?

“中村”

先生を含むトッププロの人たちは、始めたばかりで弱い人に対しても真摯に、一手一手の理由を納得させながら教えてくれるんです。シャンチーを気に入って欲しい、プレイヤーが増えて欲しいという、普及に対する情熱も非常に強いと思います。

——プロから直接指導を受けられるとは、素晴らしい環境ですね!

“中村”

中国のトッププロは、シャンチーの実力が高いだけでなく素晴らしい人格の方が非常に多いです。プロ同士での対戦で勝敗がついても「勝敗以上に素晴らしい棋譜が残ったことが素晴らしい」と考え、いざこざになるようなことはありません。また私たちの対局が終わった後の復盤にプロや上級者が参加して、一緒に考えてくれることも頻繁です。シャンチーはプレイヤーみんなが温かいと感じています。

——大会はどのような対戦形式なのでしょう?

“中村”

私たちが出るような大会では、トーナメント形式はほとんどありません。アジア大会ではスイス式という、コンピューターが自動的に組み合わせを選んで、最終的に得点で順位を決める形式です。

——コロナの影響はありましたか?

“中村”

コロナの影響で2020年のアジア団体戦がなくなり、代わりに一昨年まで全然無かったインターネット上での国際大会がメチャクチャ増えました。シャンチーの対外試合をするという意味だけで考えれば、対局の機会は相当増えましたね。私はインターネットの大会ルールである快速戦が苦手なので大会には出場していませんが、全体的にはとても盛り上がっています。

——少なからずいい形の影響もあるんですね。

“中村”

そうですね。また中国のプロによる解説動画も増え、非常に多くの視聴者を集めています。私の先生が配信した動画は、全世界で200万人の人が視聴しました。

シャンチーは言葉を越えて誰もが気軽に楽しめるゲーム

——今後日本でシャンチーを盛り上げていくイメージはありますか?

“中村”

2019年頃の協会が考えていた国内普及のイメージは、縦に1本強いチームがあればいいというものだったように感じます。でも実際の普及は山型の裾野が広い形がいいと思っています。中国では日本将棋の存在が知られていますが、日本人はシャンチーの存在を知らない人が多いと思うので、まずは知ってもらうところから進めていきたいと思います。

——シャンチーはすぐに楽しめるようになりますか?

“中村”

日本将棋よりもシャンチーのほうが簡単なルールですので、すぐに覚えられると思います。誰も彼もが勝利のために研究しなければいけないとは思いません。今はアプリなどもあるので、ルールを覚えて指せるだけでも楽しめると思います。

——どんな人がプレイヤーとして向いていますか?

“中村”

チェス、囲碁、将棋などをやる人はみんな向いていると思います。また中国語を勉強している人、これから中国に行きたいという人は覚えておいて損はありませんね。いろいろある中国文化の中で、シャンチーもひとつの文化として確立されているものなので、中国人にとって重要なものです。

——中国語が出来た方が有利ではありますね。

“中村”

日本ではまだ教本も少ないので、中国の本や動画で勉強できるのは有利だと思います。でも中国語ができなくてもプレイヤーとして楽しむことに支障はありません。国際大会に出たときには、言葉が通じない他国のみんなで部屋に集まって、ずっとシャンチーを指し続けることもあるくらい、コミュニケーションツールとしても優秀です。

——シャンチーをやっているからこそのクセはありますか?

“中村”

シャンチーではコマを取ることを「食べる」、ゲーム終盤で王様を追い詰めることを「殺す」、その局面を「殺法」、相手のコマに挟まれて動けなくなる状態を「釘差し」と言います。中国語の表現はとても直接的です。そのまま訳して日本将棋をやる友人に物騒だと驚かれたことがありますね(笑)

シャンチーはアプリで簡単にスタート!一度プレイしてみよう!

——シャンチーを始めたいと思った時にはどこから始めたらいいでしょうか。

“中村”

まずはルールを覚えたら、スマホのアプリで対局を楽しんでみるといいと思います。常に10万人くらいの参加者がいるので、対戦相手に困ることはないですね。少し時間の空きがあったら日本将棋でいう詰め将棋、殺法のアプリで勉強すると、同じくらいのレベル感の人には勝てるようになりますね。まずはルールを覚えてアプリで対戦して殺法を覚えるのが楽しめる始め方だと思います。

——ルールを覚えるのはWebサイトや本などで十分ですか?

“中村”

はい。昨年、所司先生という方が入門書を出版されているのでそれを参考にされるのもいいですし、ルールを解説しているサイトもいくつかあるので、そこで十分勉強できると思います。棋譜の読み方がわかるようになれば、私のサイトにたくさん棋譜を載せているので、楽しめると思いますよ。

——入り口のハードルは低いですね!大会に出たいときにはどうしたらいいでしょう?

“中村”

大会に出てみたい、人同士で直接対局したいとなったら、ぜひ日本シャンチー協会までご連絡いただければと思います。

——何か揃えた方がいい道具はありますか?

“中村”

遊ぶだけならアプリで十分ですが、盤駒があると友だちと対戦できるのでいいですね。いきなり高いものではなく、一番安いもので十分です。私は外出するときには携帯用の盤駒を持ち歩いています。中国だとスーパーで10~20元(170~340円)くらいで買えちゃうんですよ。

——これからシャンチーを始めたい人へメッセージをお願いします。

“中村”

しゃべるのが苦手な人でもシャンチーの盤を通じてつながれるものがあります。間にシャンチーを挟んだ交流は、ただの友だち付き合いとはちがった面白さがあると思いますので、ぜひ一度プレイしていただいて、盤を通じて仲良くなれたらうれしいです!

シャンチーを始めるのにかかる費用

盤・駒セット1,000円~
入門書「強くなる!シャンチー入門」1,500円~

シャンチーを始めたい方におすすめの本

 

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