一度聞いたら忘れられない、ユニークな競技名。「セパ」はマレー語で「蹴る」、「タクロー」はタイ語で「(籐で編んだ)ボール」を意味します。東南アジア発祥のスポーツ、セパタクローは、“空中の格闘技”とも呼ばれる、足を使った室内球技です。
全身の筋肉と関節の可動域を最大限に使いながら小さなボールを蹴り合い、最大球速140kmを超えるプレイを展開するセパタクロー。スポーツの中でも、特に難易度が高い球技と言われています。一度見たら、その迫力に圧倒され、ハマってしまうこと間違いなし!
日本セパタクロー協会の強化指定選手である玉置大嗣さんは、現在「SC TOKYO」に所属しながら、小中学生の育成にも力を入れています。学生時代から本場タイで武者修行をしていたという玉置さんに、セパタクローの面白さ、魅力を伺いました。
目次
イメージは、足でプレイする、超ハードなバレーボール!

撮影:長浜巧明
——「セパタクロー」ってどんなスポーツなんでしょうか?

簡単に言うと、足で行うバレーボールです。3対3でネット越しにボールを蹴り合い、相手に返します。アクロバティックな動きとシンプルなルールが魅力で、見ているだけでも楽しめるスポーツです。東南アジア発祥で、今は世界中でプレイされているんですが、タイ、マレーシアなどが強豪国ですね。
——バレーボールと似ているとのことですが、ルールはどう違いますか?

バレーボールと同じく3回以内のタッチで相手コートに返すというルールですが、大きな違いが5つあります。3対3と少人数であること。手や腕を使ってはいけないこと。1人で、連続3回ボールにタッチできること。守備位置のローテーションはないこと。ブロックも1タッチになること。
——なるほど、少人数で競い合うスポーツなのですね。コートはどれくらいの広さで、ボールはどんなものを使用するのでしょうか?

バドミントンのコートと同じです。ネットの高さは、男子1.52m、女子1.42mで、バドミントンよりも網目の大きなものを使用します。ボールは、もともとは籐で編んだものでしたが、現在の公式ボールはプラスチック製。男子用が円周0.41m〜0.43m、女子用が0.42〜0.44mと、男子用の方が少し重くて小さいものを使用します。

撮影:長浜巧明
——ゲームは、どのように進行するのでしょうか?

サイドにいる選手が、手でボールを投げてトスをします。センターにいるサーバーがその球を蹴り、相手コートに入れてサーブとなります。そこから、ボールが自分たちのコートに来たら3回以内に相手のコートに返します。ボールが床につくと、得点になります。
——思っていたよりもボールが小さくてびっくりしました。

そうでしょう。だいたい、ハンドボールとソフトボールの間くらいの大きさで手に収まるサイズなんです。軽くて、幼い子が手遊びできるようなボールなんですが、小さいですから、なかなか思った通りには足に当たらず、サッカー経験者でもリフティングは難しいんですよ。試合中は、豪速球で飛んで来りボールが体に当たると、けっこう痛かったりします(笑)。

撮影:長浜巧明
オーバーヘッドキック級のかっこよさ!「ローリングアタック」に憧れて

撮影:高須力
——玉置さんは、いつ、どんなきっかけでセパタクローを始めたんですか?

セパタクローに出会ったのは、大学に入ってからです。中学まではサッカーをしていて、高校はバスケ部だったので、大学の新歓でもバスケサークルを探していたんです。体育館でセパタクローを見て、体験をさせてもらって、即入部を決めました。
——どんなところに魅力を感じたんでしょうか?

はじめにリフティングをさせてもらったんですが、中学時代のサッカー体験が生きて、すぐにある程度はできたんですよ。だからすごく楽しくて。サッカーのオーバーヘッドキックみたいな、「ローリングアタック」というバク宙でアタックをする技があるんですが、それを決める先輩の姿にも憧れました。
——即入部を決めたポイントは?

マイナースポーツあるあるなんですが、「頑張ればすぐに日本代表になれるよ!」と言われて、その気になりました(笑)。実際に、自分も大学3年で日本代表に選出されました。
本場タイで武者修行。世界トップレベルのプレイに刺激を受け、プロの道へ
——学生時代からタイで武者修行をされたとか。その時の様子を教えてください。

初めてセパタクローをするためにタイへ行ったのは、大学2年の時です。だからまだキャリアも1年半とかですね。友達4人で行ったんですが、もう、ボコボコにされて、打ちのめされました(笑)。1人は現地の凄さにメンタルをやられ、さらには食あたりで途中から完全にダウンしていました。でも自分はそれで闘志が燃えたというか。翌年からは1人で行くようになりました。
——どれくらいの期間、滞在したんですか?

アルバイトして資金をためて、2週間とか、1ヶ月とか。卒業してからは、2ヶ月くらいまとめて行くようになりました。はじめはツテをたどって、だんだん知り合いを増やしていって、そのうち、プロリーグに帯同するようになりました。手伝いをしながら、一緒に練習をしたりして。
——言葉の壁は、大丈夫だったんですか?

最初はほとんど喋れなかったんですよ。重要単語だけ覚えて、Google翻訳などを使ってコミュニケーションをとっていました。タイの人って、すごく面倒見がよくて優しいんですよ。言葉が通じないストレスもありましたが、さまざまな場面で助けられたし、信頼関係も生まれましたね。
——タイでの経験は今、どう生きていると思いますか?

始めてすぐに、世界トップレベルのプレイを見たことが、まず刺激になりましたね。「ここに勝たないと世界一にはなれないんだな」と痛感しました。タイでの経験は、世界を明確に目指すモチベーションになっていると思います。
開脚180度! 念入りなストレッチで作った柔軟なカラダが武器に

撮影:長浜巧明
——見事な開脚! プレイを見ていると、玉置さんをはじめ、選手の皆さんの柔軟性の高さに目が釘付けになります。

体が硬かったらできない、というわけではないんですよ。ただ、柔らかいに越したことはないのは事実ですね。下半身を中心に、関節の可動域を広げるストレッチをしています。
——やはり、準備運動はストレッチが中心になりますか?

そうですね。どんなスポーツでもストレッチは大切だとは思いますが、ここまで念入りにするスポーツは、セパタクローが一番かもしれないですね。ペアストレッチをすることが多いのですが、相手にガッツリ押してもらいながら、自分の限界を超えていきます。自宅でも、毎日欠かさずストレッチですね。
——セパタクローの難しさって、どんなものでしょうか?

サッカーボールよりも断然小さなボールでオーバーヘッドキックをすることを想像してみてください。難しいでしょう? リフティングができたとしても、レシーブの技術はまた違って、飛んでくるボールをうまく上げるのも難しいんですよ。
——うーん、聞いているだけで難しそう! 素人にはハードルが高いでしょうか。

アクロバティックな動きが特徴ですが、繊細なボールタッチも求められるのがセパタクロー。難易度は高いとは思いますが、でもその分、できるようになった時の喜びも大きいんです。悔しさをバネに、のめり込んでしまうという人は多いですよ。
——セパタクローの醍醐味は、どんなところですか?

僕はサーバーなので、スピードのあるサービスエースを取ることができたとき。また、リカバーし合って、チームプレイを感じられる瞬間。個の技術が目立つ競技ではありますが、コミュニケーションは密に、お互いの緊張感や呼吸を感じながらプレイする、チームとしての楽しみもあります。
——セパタクロー選手あるあるの癖ってどんなものでしょうか?

ちょっとでも体が凝り固まってくると、気持ち悪いから、すぐストレッチをしたくなる。あとは、スマホなど、ものを落としてしまった時に、さっと足でワンクッションさせる、とかですかね(笑)。
怪我で日本代表落ちも……。挫折を経て復帰した今、セパタクローの未来に貢献したい
——大学在学中から日本代表に選ばれています。トップ選手としての自負は?

大学3年生から、アタッカーからサーバーにポジションが変わったのですが、その年の秋には世界大会に連れて行ってもらえたので、とにかくラッキーだったと思います。今も、自分としては、トップ選手だとは思っていません。未熟ながらも可能性で選んでいただいたので。いい環境で育てていただいたことに感謝しています。
——2017年には、膝の大怪我で代表落ちを経験されていますね。

2017年1月に膝の十字靭帯を断裂しました。プレイができないなか、何かできることはないかと考えて、自分が所属する「SC TOKYO」の下部組織として「SC TOKYO レゾンデートル」を作ったんです。小学生世代からコーチングをすることで、タイで学んできたことをきちんと伝え、未来のセパタクローを発展させられたら、と。
——その後、2019年に強化指定選手に復帰されました。現在はどのように活動されているのでしょうか?

ふだんは、フリーランスとして働いているので、仕事の後に週に3、4回、自身のセパタクローの練習と、その合間に子どもたちのコーチもしているという感じです。今はコロナ禍で、なかなか思うように子どもたちと練習ができないのが残念ですね。
——働きながら選手としても活動し、子どもたちのコーチングまで。ハードスケジュールですね。

実際に、選手をやりながらコーチも続けるのは、大変だなと感じています。しかも2019年には結婚して子供も一人いるので面倒も見なきゃですし、共働きなので見送りやお迎えなんかも分担しています(笑)。でも、誰かがやらないと、セパタクローの認知度も上がりません。今は、とにかく応援してくれる人、セパタクローを知っている人を増やすことが、自分に与えられた使命だと思っています。
——今後は、どのように日本のセパタクローを盛り上げていきたいと考えていますか?

——選手としての、今後の目標を教えてください!

2026年、愛知県名古屋市で、セパタクローのアジア大会が開催されるんです。そこで優勝することが、今の最大の目標ですね。
少人数からはじめられる! セパタクローに挑戦してみたくなったら

撮影:高須力
——玉置さんは大学のサークルでセパタクローに出合ったということですが、一般的にはなかなか接する機会の少ないスポーツです。やってみたくなったら、どうしたらいいのでしょうか?

まずは、地域でセパタクローの活動があるかどうかをネットなどで調べて、見学に行ってみるといいと思います。ただ、動きの難易度が高いスポーツなので、すでにやっている人たちの中に急に入ると、レベルの差を感じて、挫けてしまうこともあると思うんです。
——確かに。テニススクールみたいに「初心者から教えます」というセパタクロースクールは少なそうですもんね。

そうなんですよ。そもそもやっている場所はまだ少ない。でも、実際に見ることはいいことなので、ぜひ実物を見学してもらいたいのですが、初心者がいきなりやってみるのはハードルが高い。だから、やりたい仲間を集めて、新しく立ち上げてみるというのも手です。
——なるほど! それがやりやすいのは、少人数スポーツならではですよね。

体育館で、まずはリフティングから行って、レシーブ、トス、アタックの練習をやってみる。上達したら、バトミントンコートを借りてみたらといいと思います。
——コーチがいなければ、ネットで動画などを参考にするのもいいですね。セパタクローを始めるために必要な道具は何ですか?

まずはボールと、シューズは、とりあえずは運動用なら何でもいいんですが、やりやすさを追求するなら、よく使う足の内側インサイドが平らになっている専用の「ナンヤンシューズ」を使ってみてください。見た目よりもちょっと重いんですが、蹴りやすいですよ。
——これからセパタクローを始めようと思う人に、アドバイスをお願いできますか?

まずは、やってみて、楽しむことが一番! 小さなボールを足に当てるだけでも最初は難しいと感じるかもしれませんが、蹴るイメージがつかめたら、どんどんスキルアップしたくなると思います。ポジションには向き不向きもあるので、仲間でいろいろと工夫をしてローテーションをしながら、自分が一番夢中になれる動きを見つけて、追求してみるといいと思います。
——最後に、玉置さんにとって、セパタクローとは?

一生やっても、完成しないもの。フィジカルも、メンタルも、チームプレイとしても、上には上がある。難しいです。でも、だから楽しい。一生追求していきたいスポーツですね。
セパタクローを始めるのにかかる費用
ボール | 約4000円〜 |
ナンヤンシューズ | 約3500円〜 |
施設利用料 | 1000円〜 ※施設により異なる |