自転車とサッカーを掛け合わせたような「サイクルサッカー」。ブレーキがない固定ギアの自転車の車輪を操ってシュートやパスを繰り広げ、自転車ならではのスピード感やボールを操る凄技が見所の競技です。
今回は、10年に1人の逸材と言われるサイクルサッカー日本代表のエース・赤津陸さんが登場。サイクルサッカーを始めたきっかけから日本のエースになるまでの経緯はもちろん、今後の展望なども伺いました。
目次
自転車でボールを操る以外、ほとんどサッカーと一緒!?
——サイクルサッカーとは、どんなスポーツなんでしょうか?

1チーム2人制の屋内競技で、一言でいうと自転車に乗ってサッカーを行うスポーツです。
——自転車でボールを操るんですか?

はい。自転車の車輪を操って、パスをしたり、シュートを打ったりして、相手のゴールを狙います。通常のサッカーのように足を使うのはNGですが、ルールはほとんど一緒です。
——競技で使用する自転車って、一般的なものとは違うんでしょうか?

ブレーキがない固定ギアです。だから後ろに漕いだらバックもできるんです。角のような特殊な形をしたハンドルが特徴的ですが、腰を落としてシュートを打つのでサドルも通常の自転車と違って、少し後ろについているんですよ。
——その他にサッカーと違う部分ってありますか?

競技時間やコートの広さ、ボールなどですね。競技時間は7分×2セット、コートの広さは長さ14m×幅11m、ボールは500gと結構重たいんですよ。
——サッカーのコートより小さく、競技時間が短いとはいえ、自転車に乗りながら競技するのって難しそうですね…。

そうですね。基本的には2人とも動きっぱなしです。
——2人で守備と攻撃をするのも、これまた大変そうですね。

守備の場合はチーム内での役割分担が明確にされていて、1人はフィールドにいて相手のパスを阻止したり、もう1人はゴール前でキーパーをします。ルール上では2人のうちのどちらが試合中にキーパーをしてもいいのですが、事前にチーム内でポジションを決めていますね。
——そうなんですね。自転車から落ちた場合はどうなるんでしょうか?

自陣のゴールラインまで戻ってから、再びプレイに戻れるようになります。その間、ゲームは止まりません。
——どんなことがファールになるんでしょうか?

相手の体を押したり、自転車を倒したりと、相手のプレイの邪魔をした時ですね。ペナルティーエリア外で反則してしまうと相手チームにフリーキックが与えられるんですが、その場合は反則を取られた選手は、ボールから4m以上離れなければいけないというルールになっています。
——サッカー同様、ハンドもありますか?

もちろんです。ペナルティーエリア内ではキーパーが手を使ってボールを止めることができますが、それ以外のエリアでボールを手で触るとハンドになります。ハンドが多いのは、相手がゴールを打った時に自分たちのチームのゴールががら空きだった場合。そういう時はペナルティキックになります。
——サイクルサッカーの歴史を教えてください。

1891年頃のイギリスで、馬を使った球技「ポロ」が、馬の代わりに自転車を使った「サイクル・ポロ」が考案されたことが始まりとされています。戦前から国際大会は行われていましたが、日本が国際大会に出場したのは1972年。競技自体の歴史は古いんですよ。
——日本での競技人口はどのくらい?

公式では500人ほどですが、これは体験者を含んだ数。だから実際のところは、100〜150人だと思われます。日本ではマイナーですが、ドイツやスイス、オーストリア、フランス、ベルギーなどヨーロッパ圏ではある程度知名度があるスポーツなんですよ。
——自転車やボール以外に、必要な道具や服装はありますか?

動きやすい服と靴があればOKです。足をペダルに乗せなきゃいけないので、靴はスパイクでないスニーカーの方が向いていますね。自転車のチェーンがくるぶしにあたるので、上級者の選手にはハイカットのものを履いている人が多いです。
まぐれで日本1位に!? 大学部活からクラブチームへ
——サイクルサッカーを始めた経緯を教えてください。

大学のサイクルサッカー部に入ったことです。新しいスポーツを始めたいと思っていたのと、部の雰囲気が良かったのが入部の決め手になりました。
——サッカー経験はあったんでしょうか?

ないんですよ。中学では剣道をやっていて、高校ではパソコン部だったので。
——初めて見た時、「これならやれる!」という確信があったんでしょうか?

まさか。そんな自信は全然なかったんですけど、実際に自転車に乗ってみたらおもしろくて。オリエンテーリングと迷っていたんですが、サイクルサッカーに決めました。
——学生大会の成績はどうだったんでしょうか?

同期より上手になりたい、先輩に勝ちたい。そういった気持ちでひたすらコツコツ練習していたんですが、目立った成績を残せませんでした…。
——転機が訪れたのはいつ頃ですか?

大学3年生の時に、世界大会出場する選手・松田鋼さんが東京立川市に立ち上げた「たちかわサイクルサッカークラブ」というクラブチームができたんです。そこで練習するようになって、松田さんとチームを組むことになりました。それで大学4年生の時、世界選手権の代表選考となる2017年のチャンピオンズカップで優勝したんですよ。まぐれみたいな感じで。
——え! まぐれですか?

はい。もちろん練習はたくさんしていたんですけど、自分より上手い人はいっぱいいるし、実力的に及ばないと思ってました。それでも日本代表になって、世界選手権に出場することになったんです。
——試合の結果はどうだったんでしょうか?

世界選手権には上位グループのAグループと、下位グループのBグループがあるんですけど、日本はBグループなのでその中で戦うことになるんです。結果は3位。Bグループで優勝することの多かった日本の実績からいくと、これはあまり良くない成績ですね。
——そうした結果を踏まえた当時の気持ちはいかがでしたか?

沈みましたね。だけど、それ以降よりサイクルサッカーに本気になっていったんです。練習にもっと向き合うようになったし、自信を持って試合に臨めるように変わりました。2018年は準優勝だったものの、2019年には1位に返り咲くことができました。
——苦難に直面してより本気になっていたんですね。2019年のチャンピオンズリーグの後、赤津さんはドイツに留学されてますよね。

そうなんです。大学卒業後、大学院に進んだので交換留学という形でドイツに渡りました。授業の後、地域にあるサイクルサッカーのクラブチームの練習に参加させてもらってました。
——そこで習得したことはありますか?

スキル面でいうと、試合の組み立て方のバリエーションを増やせました。クラブチームの運営という面では、地域のクラブチームのあり方を学んだように思います。最近日本でも言われている言葉なんですけど、向こうのクラブチームは「総合型地域スポーツクラブ」という面が強いんです。
——と言いますと?

日本だと中学・高校・大学・社会人などと世代ごとに競技者を分けることが多いんですけど、ドイツでは小さい子供から大人まで同じスポーツクラブに属しているんです。これは、スタミナよりテクニックが重要となるサイクルサッカーのあり方として合っていると。これを学べたことは、今後僕が、サイクルサッカーに携わる上で大切なことになると思うんです。
素早いターンやキレのいいブレーキ。自転車に乗るだけで楽しい!
——サイクルサッカーを初めて8年ほど。赤津さんが思うサイクルサッカーの魅力とは?

自転車に乗っていること自体がなんか楽しいんですよね(笑)。感覚としては、スキーやスケートボードのような感じ。何かを操って楽しむスポーツってあるじゃないですか。
——それはいわゆる一般的な自転車では叶わない?

そうですね。素早いターンができたり、キレのいいブレーキができたりと、サイクルサッカーの自転車は多彩な動きができるので。あと自連車に乗れて、ボールを蹴られるようになって、シュートも打てる。どんどん新しいことができるようになっていく点も魅力的だと思います。自分がレベルアップしていく感覚がおもしろいというか。
——基礎を身につけるまでどのくらいかかるものでしょうか?

試合自体に出場するのは2年くらい練習したらいけると思います。ただ自分の思い通りに動けるようになるのは、3〜4年はかかりますね。
——サイクルサッカーをやっているからこそ身についた特殊能力なんてありますか?

日常生活で出る癖はあまりないのですが、ファールするとボールから4m離れないといけないので、その距離感が目測でわかるようになりました(笑)。
——サイクルサッカーの特徴でもあるペアという点。2人で競技と向き合うために大切にしてることは?

戦略を立てなきゃいけなかったりと技術以上の問題が発生することも多いので、やはりコミュニケーションですかね。2人で一番合わせなければいけないのは、熱量かなと感じてます。目標、目的といった目指す方向が同じでないと、チームの向かう先がブレてしまうので。
——普段の練習方法をお聞きしたいです。

基本的にサイクルサッカーは、一度技術を身につけると結構忘れないんです。自転車の乗り方と同じなんですよ。だから基礎練習を何回も反復するよりは、実戦で試合の組み立て方を考えたり、その中で新しい動きや技をどんどんマスターしてく感じですね。今は、立川のクラブチームを活動拠点に練習をしています。
——サイクルサッカーにも技というものもあるんですね。

細かいテクニックはいっぱいあるんですよ。最近練習しているのは、コーナーキックを打つときにフェイントを入れて、相方とシュートを合わせる技です。ただ、日本の選手で取り入れている方が少なくて…。
——どうやって習得するのでしょうか?

海外の選手の動画や、留学先のドイツの選手の動きを見て学ぶことが多いですね。
サイクルサッカーを始めるには、クラブチームへの入会が正解!
——今年大学院を卒業されますが、今後のサイクルサッカーとの向き合い方は?

もちろん就職後も続けます。東京、大阪、滋賀、福岡とサイクルサッカーはできる地域が限られているんですが、これに収まるように就活も行いました。
——日本代表としての抱負、選手としての目標をお聞きしたいです。

世界選手権のBグループで優勝して、Aグループに昇格したいです。これまでの日本は、Bグループから昇格してAグループに残留できたのは1年間しかなかったみたいなんですが、その壁を壊せたら嬉しいです。
——そのためにやろうと思っていることはありますか?

単純に練習量を増やしても勝てない部分もあると思うので、試合の組み立て方など、上位グループに君臨するヨーロッパ勢の技術を1個1個マスターしていきたいと考えてます。それに自分たちの練習相手もレベルアップしないと難しいので、日本のサイクルサッカーのレベルの底上げもできたらと思っています。
——今後、日本のサイクルサッカーをどのように盛り上げていきたいですか?

現状、サイクルサッカーは大学ベースで行われているので、「たちかわサイクルサッカークラブ」のような地域のクラブチームの普及を目指したいです。それで留学先のドイツで見たように、さまざまな世代の人たちにサイクルサッカーへ親しんでもらえたら嬉しいですね。
——サイクルサッカーを始めたくなったら、まずは「たちかわサイクルサッカークラブ」に連絡したらOK?

はい、ウェルカムです! 全ての世代の方を受け入れているので、ぜひサイクルサッカーを体験しにいらしてください。ほかのエリアにお住いの方でも、近くにクラブチームがあるかどうか調べてみてください。
——必要なものはありますか?

自転車はたくさんあるので、動きやすい服と靴で来ていただければ大丈夫です!
——女性も参加できますか?

もちろんです。これまで世界選手権は男子の部しかなかったんですけど、今、女子リーグを始めようという動きになっているんです。世界でも女子の競技人口少なめなのでチャンスですね。世界でメダルを狙えると思います!
——サイクルサッカーに必要なスキルはありますか?

練習すれば身につくので、特に必要ないです!
——サイクルサッカーを始めようとしている人へメッセージをお願いします。

とりあえず体験してみると、夢中になれると思います! 競技としてじゃなくても全然OKです。「体を動かしたい」「趣味として始めたい」という方、ぜひサイクルサッカーのメンバーの一員になってください!
サイクルサッカーを始めるのにかかる費用
[たちかわサイクルサッカークラブの場合]
自転車 | レンタル無料 |
入会金&月謝 | 無料 |
[道具を購入する場合]
自転車 | 15〜25万円程度 |
ボール | 1万円程度 |