運と戦略がカギ!がんを乗り越え、世界チャンピオン2度制覇を達成したプロに聞く「バックギャモン」の醍醐味【マイナースポーツ特集#24】

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運と戦略がカギ!がんを乗り越え、世界チャンピオン2度制覇を達成したプロに聞く「バックギャモン」の醍醐味【マイナースポーツ特集#24】

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世界最古のボードゲームといわれ、競技人口は3億人を超える「バックギャモン」。24個のマスが描かれた盤、駒、サイコロを使って2人で行うゲームで、日本には飛鳥時代に伝わり、現代のすごろくの原型となりました。

今回インタビューしたのは、プロバックギャモンプレイヤー・矢澤亜希子さん。ステージIIICの子宮体がんが発覚し、医師から余命宣告を受けながらも、男女共通の競技で、2014年に日本人女性初、そして2018年に日本人初かつ女性として世界初となる2度目の世界チャンピオンに輝きました。

矢澤さんに、プロプレイヤーになった経緯や転機となった出来事、バックギャモンの魅力などを伺いました!

相手の動きをブロックして駒を進める。バックギャモンは運と戦略が重要なゲーム

――「バックギャモン」はどんなゲームなのでしょうか?

矢澤

サイコロを振り、出た目に従って盤上の駒を進め、先にすべての持ち駒をゴールさせたほうが勝ちという「すごろく」のようなゲームです。一般的に知られているすごろくと違うのは、サイコロを2つ、駒を1人15個使うことと、進行方向がお互いにすれ違うように進むことですね。

――駒を早くゴールさせるということは、サイコロで大きい目を出し続ければ勝てるということですか?

矢澤

そうとも限らないんですよ。もちろん大きい目を出すとゴールに近づけますが、相手の駒を進めなくしたり、振り出しに戻したりもできるので、いかに相手の進行を妨害しつつ自分の駒を進めるかが重要なんです。

――なるほど、運だけでなく戦略も必要ということですね!古くから親しまれているゲームなんですか?

矢澤

はい。起源は古代メソポタミアや古代エジプトといわれていて、日本には飛鳥時代に伝わりました。奈良時代になると社会秩序に支障をきたすほど流行したようで、「日本書記」に持統天皇が禁止令を出したという記述があります。もとはこのバックギャモンが「すごろく」と呼ばれていたのですが、禁止されたことで代わりに現在の「絵すごろく」が登場し、当時のすごろくのことを「西洋すごろく」「盤すごろく」と呼ぶようになりました。

人生初のことに挑戦する。目標達成のためにやってみた

――矢澤さんがバックギャモンを知ったきっかけはなんだったんですか?

矢澤

大学3年生のとき、趣味のスキューバダイビングをするためにエジプトへ行ったんです。そうしたら街中でバックギャモンをしている人がいて、お土産屋さんにもバックギャモンの盤がたくさん売っていて、「あのゲームは何?」と気になりました。ただ、その場では興味が湧かず、やらずに帰ってきましたが(笑)。

――それなのにやってみようと思ったのはなぜですか?

矢澤

中学1年生のときに「毎年10個、人生初のことに挑戦する」という目標を立てて、ずっと実践しているんです。バックギャモンもやったことがなかったので、目標達成のためにやってみようかなと。まずインターネットで「エジプト ゲーム」と調べてバックギャモンを知り、パソコンのWindowsにもゲームが入っていたのでやってみました。 

――実際にやってみてどうでした?

矢澤

最初の数日は全然勝てなくてつまらなかったです(笑)。でも、他の人の試合を見たり、なぜ負けたのかを分析したりして、何度も挑戦しているうちにだんだん強くなっていって。勝てたときがすごく嬉しかったので、「もっと強くなりたい」と思いました。 

本格的に始めて1年後には日本タイトルを獲得

――プロプレイヤーになった経緯を教えてください。

矢澤

人との対戦をしてみたいと思っていた頃に、ボードゲームカフェに行ったんですね。そこに偶然プロバックギャモンプレイヤーの望月正行さんがいて、声を掛けていただき、対戦したら勝つことができたんです。「センスがあるよ」と東京大学のバックギャモン研究会に誘っていただき、そこで大会や国内リーグなどがあると知りました。 

――すごい!初めて大会に出場したのはいつですか?

矢澤

2003年に行われたアメリカのラスベガスオープンの初級クラスです。「ラスベガスに行く」「バックギャモンの本場の大会を見る」で人生初のことが2つもできる!と、観光のつもりで行ったんですよ(笑)。でも、せっかくだから参加してみたらと言われて「大会出場も人生初だ」と思って参加しました。結果は準優勝でした。

――初めての大会で準優勝!

矢澤

周りからは「おめでとう」と言われましたが、決勝まで勝ち進んで最後に負けたわけじゃないですか。素直に喜べず、モヤモヤした気持ちが残って。そこで初めて「大会に出たい」という気持ちが芽生えたんです。その後、日本の大会にも出場し、2004年に日本5大タイトルのひとつである「盤聖」を獲りました。 

――そのままプロになったんですか?

矢澤

いえ、日本タイトルは獲りましたが、プロになろうとは考えませんでした。というのも、当時は日本国内でバックギャモンだけで生活している人はいなくて、プロとしてやっていくなら海外に行く必要があったんです。大会で勝てるようになって楽しくなってきた時期ではありましたが、企業に就職することにして、長期休暇を利用して海外の大会に出場することにしました。

体調不良を理由にしない。武者修行を経て世界一に!

――これまでの競技者人生で特に印象に残っていることはなんですか?

矢澤

2008年頃から原因不明の体調不良が続いて、仕事とバックギャモンの両立で休めていないからだと思い、一度バックギャモンを離れました。それでもどんどん悪化して、痛み止めを飲まないと歩くのも難しくなったんです。結局仕事も辞めることになりました。仕事もバックギャモンもできないあの時期はつらかったですね。

――そんな状態でも再びバックギャモンを始めたのはなぜですか?

矢澤

研究会仲間の鈴木琢光さんが世界チャンピオンになったと聞いたことがきっかけです。自分が何もできていない間に友人は前に進んでいることを知り、自分の時間だけが止まっているような、取り残されたような気持ちになって。「体調不良を理由に何もしないわけにはいかない」と、またできる範囲でバックギャモンを始めることにしました。 

――体調不良の原因はいつわかったんですか?

矢澤

2012年冬です。海外の大会で結果を残せるようになってきた頃にステージIIICの子宮体がんだと宣告されました。手術しなければ1年未満、手術しても5年後の生存率は約50%だとわかりました。 

――そうだったんですね⋯⋯。宣告されたときはどのようなお気持ちだったのでしょうか?

矢澤

死ぬかもしれないということより、子どもが産めない体になることがショックでした。自分のせいで夫が子どもを持てなくなってしまうと思うと心が痛くて。正直、自分の価値を見失って、死を選ぶことも考えました。でも、価値はつくれるのではないかと、バックギャモンの世界チャンピオンを目指すことにしたんです。 

――体調面を考えると無謀なことのように思えますが……。

矢澤

海外の大会へ行くことは医師からも止められましたが、私にとってやりたいことができない状態は、死んでいるのと同じなんです。価値をつくるために生きることを選択したわけですから。手術を受けて、子宮、卵巣、卵管、リンパ節を切除。その後、抗がん剤治療を続けながらニューヨークへ武者修行に行きました。世界チャンピオンになるためには、もっと強くならなければならないと思ったんです。

――む、武者修行!?

矢澤

はい。まず「ストリートギャモン」という公園でバックギャモンをしている人たちに対戦を挑みました。その後、ハーレムという黒人街の「バックギャモンクラブ」から挑戦状が来て、クラブの一番強い人を倒してからは、ニューヨークの街では対戦拒否されるようになりました(笑)。検診のために定期的に日本に帰りつつ、サンフランシスコやマイアミなど場所を変えて半年ほど修行を積みました。 

――武者修行の成果もあって、2014年に世界チャンピオンになりましたね。どんなお気持ちでしたか?

矢澤

目標を達成できた嬉しさもあったし、ベッドで横になっているしかできなかったつらい日々のことも走馬灯のように思い出されて、一気にいろんな感情が押し寄せてきました。普段は人前で泣くことはないのですが、あのときは感極まって泣いてしまいましたね。 

――さらに、2018年には日本人初、国籍関係なく女性初の世界チャンピオン2連覇!

矢澤

バックギャモンの競技を知らない人には、サイコロを使うことから「運のゲーム」と思われがちですが、2度制覇したことで実力も関係することがわかってもらえたかなと思います。また、バックギャモンは圧倒的に男性プレイヤーが多く、私が始めたばかりの頃は選手だと思われないこともありました。女性が世界一、しかも2度制覇を成し遂げたことで、女性プレイヤーの今後の風向きが変わることにも期待しています。

強さの秘密はデータの活用。世界初の4連勝を目指す!

――競技中はどんなことを考えているんですか?

矢澤

サイコロのどの目が出てもいいように、「この目が出たら駒をこう動かす」というのを21パターン考え、どこに駒を配置すれば最も勝率が高いかを比較検討しています。相手の順番のときは、今自分はどれくらい有利な立場なのか、この先どんな展開になっていくのかなども考えていますね。 

――試合時間はどれくらいなんですか?

矢澤

バックギャモンの大会は1ゲームだけの一発勝負ではありません。1点取るのは約10分ですが、設定されたポイントを先取したほうが勝ちなので、1回の試合で何度もゲームを行います。2014年の世界大会の決勝は約8時間かかりました。 

――8時間!途中で集中力が切れることはないんですか?

矢澤

ありますよ。「お腹が空いたなぁ」とか(笑)。集中力が切れないように、プレイヤーは飴やジュースなどで糖分を補給しています。私の場合、必ず持ち込むのはコーラ。世界中どこに行ってもあるし、味も変わらないので安心なんです。 

――矢澤さんの強さの秘密を教えてください!

矢澤

昔の人は正解がわからないなか経験値だけで駒を進めていたと思うのですが、今はコンピューター(AI)で正解がわかります。私は始めた当初からAIを使って研究していたので、経験が浅くてもすぐに強くなることができました。データの活用が得意なんだと思います。今ではデータに加え、経験をもとに最善手を選んでいます。

――普段はどのように練習されているんですか?

矢澤

自宅のパソコンでAIを相手に練習して、大会が近くなったら実際のバックギャモンボードを使って他の選手と練習試合をすることもあります。 

――体調の方はいかがですか? 

矢澤

手術から5年以上が経ち、再発の可能性はほとんどなくなりました。今は体調を見ながら月に1回、1〜2週間くらい海外の大会へ行き、帰国したらその結果の振り返りや分析をするというライフサイクルです。 

大逆転が起こることも。最後までドキドキできるのがバックギャモンの魅力

地中海に浮かぶ島国・キプロス共和国では水中で行うバックギャモンの大会がある。サイコロには鉛が使われ、水中でも転がるようになっている。

――あらためて、矢澤さんが思うバックギャモンの魅力を教えてください。

矢澤

どんなに負けそうな展開でも、「起死回生の目が出続けて大逆転!」なんてことが起こったりするんですよ。最後までスリルがあってドキドキできるのが一番の魅力ですね。1ゲームぐらいなら初心者がいきなり強い人から点数を取れることもあるので、そういうところも面白いかなと思います。

――バックギャモンから学んだことはありますか?

矢澤

バックギャモンと人生は、不確定要素と自分の決断の割合が似ています。日常生活は、サイコロの目と同じようにコントロールできないことばかりですが、駒の動かし方は自分次第。冷静に展開を考えることが大事だと学びました。「最悪なのは思考停止すること」と、がんの手術を決断できたのもバックギャモンのおかげですね。 

――今後の目標はどう考えていらっしゃいますか?

矢澤

過去に1人しか達成していない世界チャンピオン3度制覇。そして、世界初の4度制覇ができたらいいですね!また、日本にはバックギャモンのプロリーグがないので、もっと認知度を上げて将来的にリーグを作れたらと思っています。 

――積極的にメディアに出られているのは普及活動の一環でもあるんですか?

矢澤

はい。大会に出て良い結果を残しても、今はバックギャモンに興味がある人にしか知ってもらえないので、幅広く活動することで「この人は誰?」「バックギャモンのチャンピオン?」「バックギャモンって何?」と少しでもバックギャモンに興味を持ってくれる人が増えたら嬉しいなと思っています。 

――バックギャモンを始めたいと思ったら、まず何をしたらいいのでしょうか?

矢澤

わざわざ盤やサイコロを買わなくても、スマホに無料のアプリがあるので、ダウンロードすれば今すぐに始められます。コンピューターとじっくり対戦できるものもあれば、時間設定ができる本格的なものもあるので、いろいろ試して自分に合ったものを見つけられますよ。 

――かなり気軽に始められますね!

矢澤

そうなんです。オフラインで人と対戦したくなったら、盤と駒とサイコロがセットになったものが数千円で売っていますし、ゲームカフェに行ってみるのもいいですね。サイコロ振るだけでも、他の人がやっているのを見ているだけでも楽しいと思います。 

――この記事を読んで、バックギャモン興味を持った方へメッセージをお願いします!

矢澤

バックギャモンは最後の最後までドキドキ楽しめるゲーム。奥深さもあるので、一度やったらきっとハマると思いますよ。天皇から禁止令が出るぐらい中毒性がありますから(笑)。まずは難しく考えずに、チャレンジしてみてくださいね! 

バックギャモンを始めるのにかかる費用

スマホアプリ無料
バックギャモンセット(盤、駒、サイコロ)1,000円〜5,000円程度
ゲームカフェ ゲーム参加費500円〜2,000円程度

「運の創り方」をテーマにした矢澤亜希子さん初の著書『運を加速させる習慣』が好評発売中!

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