雪山・水中・崖の上……極限状態でアイロンをかけるスポーツ「エクストリームアイロニング」の世界に迫る【マイナースポーツ特集#21】

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雪山・水中・崖の上……極限状態でアイロンをかけるスポーツ「エクストリームアイロニング」の世界に迫る【マイナースポーツ特集#21】

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山頂や海の中、切り立った崖の上など、とんでもない場所でアイロンがけをするスポーツがあるのを知っていますか?

そのスポーツの名は、エクストリームアイロニング。イギリス発祥のスポーツで、競技人口は欧米を中心に700名ほど。マイナー中のマイナースポーツです。

今回は、医師や起業家として多忙な日々を送る中、エクストリームアイロニストクラブ代表として活躍するアイロニスト、MAKIさんにインタビュー。世界を股にかけてアイロンをかけてきたMAKIさんに、エクストリームアイロニングの魅力やおすすめアイロニングスポットなど、たっぷりお話を伺いました!

「ばかばかしいことを真剣に」がエクストリームアイロニングの真髄

——「エクストリームアイロニング」ってそもそもどんなスポーツなんですか?

MAKI

エクストリーム(極限)な状況でアイロン掛けを楽しむスポーツのことです。
イギリスのロッククライマーであるフィル・ショーが、エクストリームアイロニングの生みの親です。

フィル・ショーは数々のエクストリームスポーツ(※)を経験する中で、少し物足りなさを感じるようになっていました。そんな中、彼が自宅の裏庭でアイロンのかけ方を工夫していた時、ルームメイトが「何しているの?」と不思議がって尋ねた際に「エクストリームアイロニング」と答えたことから、このスポーツは生まれました。

2002年にドイツで世界大会が開催されたのを皮切りに、これまで4度ワールドカップが開催されています。

※エクストリームスポーツ:速さや高さ、危険さや華麗さなどの「過激な (extreme)」要素を持ったスポーツの総称。ロッククライミング、整地されていない雪山を滑るバックカントリースキーなど。

——どんなルールなんでしょうか。

MAKI

ルールがないのがルールなんです。エクストリームスポーツを行う刺激と、アイロンがけの満足感を組み合わせる。決まっているのはこれだけです。使う道具に決まりもありません。過去に大会も開催されましたが、基本的には人と競うものではないんです。

競技に対する考え方も人それぞれです。アイロン掛けをしっかりやるべきだという人もいれば、みんなでわいわい楽しめればいいという人もいる。この多様性がいいところです。

——かなり自由なスポーツなんですね! その中でも、エクストリームアイロニングをする人に共通していることってあるんでしょうか?

MAKI

「ばかばかしいことを真剣にやる」という意識ですね。そもそも、エクストリームな状況=山頂や海の中、崖の上など危険を伴う場所であるケースが多いんです。そんな場所に、重いアイロン台とアイロンを担いで行って、涼しい顔でアイロン掛けをする……なんて、ばかばかしいにも程があるじゃないですか?(笑)そこが面白いんですよ!

雪山で初アイロニング。「これだ!」とスイッチが入り一気にのめり込む

――MAKIさんは、普段はどんなお仕事をされているんでしょうか。

MAKI

普段は外科医・大学教授・起業家として、手術をしたり医学研究や医療機器開発などを行ったりしています。
具体的には、医療分野のVR(仮想現実)/MR(複合現実)技術や、遠隔医療、低侵襲ロボット手術などの開発も行っています。その他、医療機器ベンチャー企業を起業し、現在世界展開中です。

——エクストリームアイロニングはどんなきっかけで始めたんですか?

MAKI

友人が主催するハッカソン(エンジニアが集まり、短期間でプロダクト開発を行うイベント)に参加した際に、エクストリームアイロニングを体験したのが最初のきっかけです。
ハッカソンは福島県の会津磐梯山にある星野リゾートで開催され、私は先端医療や技術開発に関する講演のスピーカーとして参加しました。

ハッカソンの翌日に「朝から山頂のカフェで開発をしよう!」という話になり、主催者である友人や参加者のみんなで、早起きして雪山に行ったんです。カフェで各自パソコンを広げて作業をしていたら、友人が突然「余興でアイロンでもかけましょうか」と言い出して……。当時エクストリームアイロニングのことを知らなかったので、「何のこと???」って思いました。

——いきなり「アイロンかけましょう!」と言われたら、たしかにびっくりしますね(笑)。

MAKI

不思議に思いながらもみんなで雪山に入って行き、景色のいい場所にたどりつきました。すると友人が、綺麗な雪原の上にアイロン台を置いて、アイロンをかけ始めたんです。その光景を見て「なんて美しい景色にアイロン台が映えるんだ」と思いました。
参加者はみんな盛り上がって、スマホのカメラや、中にはドローンで撮影を始める人もいて。「何だこれは?!」と、衝撃でした。そしたら、「一緒にやってみない?」と誘われたんです。

——そこで初アイロニングですね!

MAKI

じゃあ試しに……とアイロンを持つと、ちゃんと温かいんですよ。山頂のカフェから長いコンセントで電源を引いてきていたんです。

そして、雲ひとつない青空の下、真っ白なだだっ広い雪原で、眼下に広がる猪苗代湖や福島の街並みを眺めながらアイロンがけをしました。
そしたら、めちゃくちゃ気持ちが良くて! 冷たい空気とアイロンからのぼる温かい蒸気、アイロンで布をプレスする時の、あの独特な匂い……。何とも言えない高揚感を覚えて、「これだ!」とスイッチが入りました。

——今はどのくらいの頻度でやっているんですか?

MAKI

定期的にやっているわけではなくて、旅行やアクティビティに出かける際に、一緒にエクストリームアイロニングもやっています。
元々登山やスキー、ダイビングなどが趣味で、国内外問わず絶景を見に行くのも好きだったんです。なので、アイロンがけのためにどこかに行くというより、普段の趣味の中にアイロンをプラスしている感じですね。

最近は、SNSに普通の登山やスキーの写真をUPすると「今回はアイロンないんですか?」とコメントが来るようになりました(笑)。

 

アイロン片手に絶景めぐり!歴代TOP3スポット紹介

——これまで訪れた中で、印象的な場所TOP3を教えてください!

1位:クーハーカルハット宮殿(タイ)——1日1時間しか見られない黄金の宮殿を前に至高のアイロンがけ

MAKI

タイ・ホアヒンにある「プラヤーナコーン洞窟」の中にある宮殿です。
午前中の1時間だけ洞窟の中に光が差し込み、宮殿が金色に輝いて見える時間帯があります。その瞬間を狙って早朝に宿を出発し、なんとか間に合って撮った一枚です。

当時は日本語のどのガイドブックにもまったく紹介されておらず、一部の絶景好きだけが足を運ぶような、知る人ぞ知るスポットでした。徒歩で岩山を2つ越える必要があり、かなり険しい道のりでしたね。目的地に着くまでが大変であればあるほど、エクストリームアイロニングの達成感は上乗せされます!

2位:富士山(日本)——日本最高峰アイロニング記録3,777m樹立!

MAKI

高さ1mのアイロン台を担いで富士山に登頂し、富士山の標高3,776m+1mで、日本最高峰アイロニング記録3,777mを樹立した時の写真です。
元々登山が好きなので以前にも登ったこともありましたが、3kgのアイロン台と2kgのアイロン、合計5kgの負荷を背負って登るのはやはりリスキーだと改めて感じました。

3位:グランド・キャニオン(アメリカ)——切り立った崖とアイロンのコントラストが迫力満点

MAKI

3位は同率で2箇所選びました。ひとつめはグランド・キャニオンです。
こちらは、絵的には迫力満点ですが、誰でも簡単にたどり着ける観光地……ということで、3位にしました。

3位:沖永良部島 銀水洞(鹿児島)——幻想的な景色を堪能しながらアイロニング

MAKI

同率3位のふたつめは沖永良部島にある銀水洞という海底洞窟です。こちらは私有地で、何度か島に通ってケイビング(洞窟探検)をして、現地の方との関係性を築いたあとでないと入らせてもらえない場所なんです。

洞窟内にはリムプールと呼ばれる水が溜まっている場所がいくつもあり、そこにガイドの方がダイビング用の水中ライトを入れてくれるんです。最初は真っ暗ですが、ライトを入るとリムプールの部分だけ光って見えて、何とも幻想的な美しさでした。洞窟内が暗くてあまり綺麗な写真が残せなかったのが残念でしたね。

見る人もやる人も笑顔に!「心のシワ」が伸びるのが最大の魅力

——エクストリームアイロニングの一番の魅力は何でしょうか?

MAKI

その場にいるみんなが楽しめるところです。たとえば急に「踊ってよ!」と言われても、いきなり踊るのはハードルが高いですよね。でも、アイロンなら誰でもかけられます。

自分はやらないけれど見るのは好き、という人もいます。野球でもサッカーでも、観客も含めてスポーツですよね。エクストリームアイロニングも同じだと思っています。

やっている人も見ている人も、思わず笑顔になってしまう。これがエクストリームアイロニングの一番の魅力です。私はよく「心のシワを伸ばす」と言っています。

——「心のシワ」というのは……?

MAKI

そもそも人はなぜシワを伸ばすんだろう? と考えてみたんです。極論を言えば、服がシワシワのままでも生きていけるじゃないですか。
シワを伸ばしたい思いの根底には、「服にシワがあると気持ちが悪い」「服のシワを人に指摘されたら恥ずかしい」という、心に何かしらの引っかかりがあるんじゃないかなと。つまりそれって「心のシワ」ですよね。

——なるほど……エクストリームアイロニングでみんなが笑顔になり、心のシワが伸びる、ということですね。

MAKI

そうですね! ただ、場所のチョイスには少し気をつけていただきたいです。
以前、震災被災地や避難所のような、気遣いが必要な状況を無視した写真をとり、「エクストリームアイロニング」と言っていたケースがありました。
周囲の人や状況、プライバシーや歴史的背景などにもちゃんと配慮すべきです。

エクストリームアイロニングはなぜ「エクストリーム」なのか。その理由は、ただ「過激な」ということではなく、あくまで「エクストリームスポーツ」が基本なのです。また個人的には「自分の心の壁や限界を越える」という意味でもあると思っています。

 

——今後、こんな場所でエクストリームアイロニングをしたい! と考えている場所はありますか?

MAKI

ノルウェーにある「トロールの舌(トロルトゥンガ)」に行きたいですね。山の崖から岩が水平に突き出ている様子が、ノルウェーの妖精・トロールの舌のように見えるのが、その名の由来です。最寄りのバス停から6〜7時間山歩きをしないとたどり着けない場所にあります。

ノルウェー・トロールの舌(トロルトゥンガ)

MAKI

エクストリームアイロニングの生みの親であるフィル・ショーがアイロンがけをした、イギリス・レスターにある岩山にも行きたいです。フィル・ショーにもぜひ会ってみたいですね! アイロン談義で盛り上がりたいです。

イギリス・レスター。フィル・ショーのエクストリームアイロニングの様子( Theredrocket at English Wikipedia / CC BY-SA )

下手に手を出すとやけどする?!安全に楽しいアイロニングライフを

——「エクストリームアイロニングをやってみたい!」と思ったら、まず何から始めたらいいんでしょうか?

MAKI

アイロンとアイロン台があれば、いつでも誰でも始められます! 一人でも友達とでも、ぜひチャレンジしてみてください。
私が代表を務める「エクストリームアイロニストクラブ」では、エクストリームアイロニング関連の情報を随時更新していますので、よろしければこちらもご参照ください!

——アイロンとアイロン台で、おすすめのものはありますか。

MAKI

アイロン台は、無印良品のものを愛用しています。
立ってアイロンがけできる高さのアイロン台の場合は、脚を折りたたんで収納しますが、たたんだ時にアイロン台の両端から脚が出てしまうものがほとんどでした。ですが無印良品のアイロン台は、脚が台の下にぴったり収まるので、リュックに収納しやすいんです。(※現在は生産終了)

アイロンのおすすめは2つあります。ひとつは、無印良品のトラベル用アイロン。旅行用の小さなアイロンで、持ち手が外れてコンパクトに収納ができます。色々と探しましたが、持ち手が外れるのはこの商品だけでしたね。
もうひとつは、パナソニックの自動アイロン。アイロンは女性向けのデザインのものが多い中、こちらは黒を基調としたクールなデザインで気に入っています。

MAKI

また、エクストリームスポーツには動画撮影が欠かせないので、カメラがあるとよりエクストリームアイロニングを楽しめます。最近は360°動画に凝っていて、Insta360 ONE RやInsta360 ONE Xでセルフィーしています。ブレ防止が優れていて自撮り棒も消えるので、まさに“究極”の相棒です。

360°カメラによるセルフィー。自撮り棒が見えないので、臨場感あふれる映像が撮影できる!

 

——最後に、エクストリームアイロニングを始めたいと思っている方へメッセージをお願いします!

MAKI

一番言いたいのは、「下手に手を出すとやけどするぜ!」ということです(笑)。

これには2つ意味があって、ひとつは生半可な気持ちで派手なことをしようとすると危険だよ、ということ。私は元々登山やスキー競技の経験があり、その経験を元にリスクを最小限に抑えながらエクストリームアイロニングを行っています。でも、一度も山に登ったことがない人がアイロン台とアイロンを担いで山頂でエクストリームアイロニングをするのは、無謀ですよね。安全第一でやってもらいたいです。

二つ目は、スベってやけどする可能性があるよ、ということ。「足が滑る」のスベるじゃなくて、面白くなくてスベる方です(笑)。この2つを踏まえた上で、それでもやりたい! と思ったら、ぜひ一歩踏み出してみて欲しいですね!

エクストリームアイロニングを始めるのにかかる費用

アイロン3,000円〜
アイロン台3,000円〜
Insta360 ONE R/Insta360 ONE Xオープン価格(数万円〜)
勇気とユーモアプライスレス

 

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