その姿はまるで人魚。水中最速競技「フィンスイミング」の魅力とは【マイナースポーツ特集#13】

趣味

その姿はまるで人魚。水中最速競技「フィンスイミング」の魅力とは【マイナースポーツ特集#13】

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「“この子”を背負って歩くのは、だいぶうまくなったと思います(笑)。」

大きなフィン(足ひれ)をとともに取材場所に現れたのは、フィンスイミング日本代表の山階早姫(やましな さき)選手。

かつては競泳選手として活躍していた山階選手は、目標にしてきたロンドンオリンピックへの出場が叶わず、2012年にフィンスイミングに転向。それから今日に至るまで、なんと8年連続で日本代表に選ばれています。

まるで人魚のような格好で、水中を驚異的なスピードで進むフィンスイミング 。「最初は『趣味がてらやってみようかな?』くらいの感じだったんです」と話す山階選手は、明るい関西弁が印象的。学校の先生としての顔も持つ山階選手に、競技の魅力や始め方について伺いました。

子どもからシニアまで「自分の最速」を味わえる

――今日は大きなフィンを持ってきてくださり、ありがとうございます。これを普段から持ち歩くのは、かなり大変そうですね……?

山階

そうなんです! 何も考えずに歩いていると、すれ違う人をなぎ倒してしまうので(笑)。移動するときはかなり気をつけています。重さも私が使っているのだと5㎏ほどあるので、もはや移動だけでも筋トレです。

――大きいうえに相当な重さなんですね……無事に来ていただけて良かったです。本題に入りますが、フィンスイミングとはどんなスポーツでしょうか?

山階

フィンという足ヒレを着けて泳ぎ、そのスピードを競う「水中爆速スポーツ」です。フィンをつけて泳ぐと、推進力が約30%も上がると言われていて、競泳の1.5倍のスピードで泳ぐことが可能なんです。

――競泳の1.5倍……!いったいどのくらいの速さなのでしょうか?

山階

もともと泳ぐのが速い方の場合、フィンを着けて泳ぐと、あまりの速さに頰や内ももの肉がブルブルと揺れるんです。「全身の肉が踊ってるみたいになる」と言っていた人もいました(笑)。それくらい、未体験の速さです。

――未体験の速さ、体験してみたいです。 誰でも始められますか?

山階

自分の足に合うフィンがあれば始められます。小学校高学年ぐらいからですね、小さいサイズのフィンが既製品にはないので低学年の子はちょっと難しいんですよね……。シニアからも人気で、73歳の方に教えたこともあります。「自分の最速を味わってみたい」と興味を持ってくれる方が多いです。

――初心者におすすめのフィンはありますか?

山階

フィンには、両足を固定する「モノフィン」と、片足ずつ別々に装着する「ビーフィン」がありますが、初心者でも始めやすいのは「ビーフィン」です。クロールとほぼ同じ動きなので、取っつきやすいですよ。私も、ビーフィンから始めました。

山階選手が使用しているモノフィン(上)とビーフィン(左下)

山階

モノフィンは、“マーメイドみたい”な見た目と実際のギャップが大きいんです。私も最初は、「バタフライと泳ぎ方が似ているから、簡単そうだな」なんて思っていたのですが、慣れるまでは苦労しました。

――モノフィンで泳ぐにあたって、特に難しく感じたことを教えてください。

山階

まず、まっすぐ泳ぐのが難しいです。両足が固定されて体の動きが制限されるので、左右のちょっとした筋力差で斜めに進んでしまいます。初めてモノフィンで泳いだときは、知らぬ間にコースアウトしていました。ゴールしてみたら、スタートしたコースから1コース隣にずれていて(笑)。

飛び込みも競泳とは違います。足の指を飛び込み台に引っ掛けることができないので、“飛ぶ”よりも“倒れる”感じです。この感覚に慣れることが、初心者にとって一番の難関だと思います。

「思い出づくり」のつもりが、アジア選手権で3位に

――山階選手は、何がきっかけでフィンスイミングを始めたのですか?

山階

私は0歳8ヶ月のときに初めてプールに入って、それからずっと競泳を続けてきました。大学卒業後はロンドンオリンピック出場を目指してセミプロスイマーとして1年間一生懸命練習しましたが、結局代表にはなれなかったんです。

――それで、競泳の引退を考えたのですね。

山階

最後には、あんなに好きだったプールに入るのも嫌になっていました。スポンサーさんにもついていただいていたので、競泳が自分のためだけのものではなくなっていて。そんな意識が強くてプレッシャーも大きくなっていたんですね。

そんなとき、同じスイミングチームの先輩・谷川哲朗選手が「水泳が嫌いで終わるのはもったいないよ。フィンスイミングやってみない?」と声をかけてくれて。谷川選手は私たちが競泳の練習している横で練習をしていたので、フィンスイミングのことは昔から知っていたんです。でも、すごく波が立つので、正直ジャマだなと思ってました(笑)。

――ジャマな存在だったんですね(笑)。

山階

はい(笑)。でも声かけてもらったし、谷川選手は何やら楽しそうにしているし、自分はずっと泳いできたので「趣味がてらやってみるのもいいかな」と思って、一回だけ練習に参加してみることにしました。

――最初は趣味のつもりで始めたとは驚きです!

山階

それなのに、あれよあれよと日本選手権に出ることになってしまって(笑)。ほとんど練習もしていないし、どんなタイムだったら速いのかもわからずに、ひとまず泳ぎ切ってプールを上がると、協会の方が「これはすごいことだ」と言って駆け寄ってきてくださいました。なんと、当時の日本記録を8秒も更新してしまっていたんです。

その3ヶ月後にベトナムで開催されたアジア選手権にも、「せっかく日本代表のユニフォームが着れるんだから出ようよ」と谷川選手が誘ってくれて。思い出づくりのつもりで出場したら、結果は3位。銅メダルでした。

――競技を始めて半年足らずで、アジア選手権で3位。プレッシャーがなかったことが、いい結果に繋がったのかもしれないですね。

山階

そうですね。表彰台に立ったときに初めて「もうちょっと続けてみようかな」と思いました。一緒に遠征に行ったメンバーも楽しかったですし、こんな風にゆるい感じで続けられるなら、いいなって。

リレーメンバーで撮影した写真(左から2番目が山階選手)

――それから8年間、現在に至るまで続けられているのはなぜでしょうか?

山階

目標起点ではなく、自分起点で次のゴールを決めているからだと思います。長い時間をかけて大きな目標を目指すよりも、「この大会でこのタイムが出たから、じゃあ次はここを目指す」というように、一歩一歩進むことを大切にしています。

それに何より、泳いでいる自分が好きなんです。水の中で、自分の最速を求め続けたいたい。だからずっと泳いで来られたし、これからも泳ぎ続けるんだと思います。

学校の先生と競技の両立

――山階選手は教師として働かれているんですよね。練習や大会はどのくらいの頻度で参加しているのですか?

山階

高校で社会科の先生をしながら競技をしているので、毎日がっつりとレーニングしているわけではありません。平日に週3日ほど、地元のスイミングスクールの競泳クラスに混ぜてもらい、私だけビーフィンを履いて泳いでいます。

モノフィンの練習ができるのは、週末にフィンスイミングのチームで集まって、プールを貸切って練習するときだけですね。関西は競技人口が少ないこともあってフィンOKなプールがなかなかなくて、片道2時間かけて行くようなところで練習しているんですよ。モノフィンは波がものすごいですし、ターンのときに「バーン」と大きい音がして周囲を驚かせてしまうので、仕方のない部分はあると思うのですが……。

大会は年5~6回あって、全部関東で開催されています。

――競技と仕事の両立はどのようにされているのでしょうか。

山階

私は非常勤講師なので、授業が終われば練習に行くことができます。時間の面では都合がつきやすいのですが、問題は体力面ですね。生徒たちの元気がいいので、指導が大変です(笑)。

――学校の先生ということは、水泳を教えるのも得意そうです。

山階

泳ぎを教えるのは、そんなに上手ではないんじゃないかな……? 日本史や世界史って、苦労して覚えたことなので教えられるんですけど、水泳は感覚でやっている部分が大きいので、言葉で教えるのがなかなか難しくて(笑)。

そうは言いながらも、私が教えてフィンで泳げるようになった方はたくさんいるので、体験会では心配しないでくださいね!

フィンスイミングを始めて、人生が豊かになった

――フィンスイミングをやってみたい場合、まず何から始めたらいいでしょうか?

山階

体験会が随時開催されています。まずはそれに参加してみてください。道具は貸してもらえるので、水着を持っていけば大丈夫です。体験してみて「もっとやりたい!」と思ったときは、体験会の主催者に相談すると、チームを紹介してもらえます。

シュノーケルは、株式会社マキタクラフト製。代表の槙田誠さんはフィンスイミング仲間なんだとか

――フィンスイミングで必要な道具について教えてください。

山階

フィンと、競技用のシュノーケルです。フィンは日本で作られていないので、海外のメーカーから購入することになります。

私が今使っているモノフィンはウクライナ製で、足のサイズを計測して注文するオーダーメイドです。10万円ぐらいするにもかかわらず、試し履きができないので、ときには足に合わなくて使えないなんてこともあります……。あ、もちろん安価な規定サイズのフィンもあるので、安心してくださいね!

――フィンスイミングの認知度は上がってきているように感じますが、実際はいかがですか?

山階

上がっています! 特にテレビでオードリーの春日さんたちが挑戦してくれた影響は大きかったです。子どもたちも「春日のやつ!」と言ってくれるので(笑)。

最近は大学でもフィンスイミングのサークルができていたり、子どもから始められるスクールができていたりするので、私が始めた頃に比べると競技人口はどんどん増えています。

――そうなると、充実した練習環境も必要になりますね。

山階

そうなんです。海外にはフィンスイミング専用のプールがあるのですが、日本にはまだありません。フィンをつけて思いっきり練習するにはプールを貸し切る必要がありますが、プールの数自体が限られていますし、お金もかかります。

最近は時間貸しでプールを使わせてくれる学校が少しずつ出てきているので、そうした動きが徐々に広がっていって、競技人口に合わせて練習環境も改善してほしいなと思います。

シュノーケルを作ってくれている株式会社マキタクラフトがつくってくれた、モノフィンモチーフのネックレス

――最後に、フィンスイミングを始めてみたいと思っている方へ、メッセージをお願いします!

山階

フィンスイミングを始めると体の使い方がうまくなるので、普段から泳いでいる方は普通の水泳ももっと楽しめるようになります。体幹が鍛えられますし、姿勢もよくなるしで、日常生活にもいいことだらけです。

競技人生を振り返ると、フィンスイミングを始めたことによって、自分の人生が豊かになりました。これを読んでいるあなたにとっても、もしかしたらフィンスイミングが人生を豊かにしてくれる存在になるかもしれないので、興味があるならぜひ挑戦してほしいなと思います。

――山階選手、ありがとうございました!

フィンスイミングを始めるのにかかる費用

フィンモノフィンの場合4万円~・ビーフィンの場合3万円~
シュノーケル~8,000円
プール料金(貸切の場合)1,500~2,000円/回 ※プール毎の価格設定、利用人数による
合計39,500円~
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