昨今ニュースやテレビ番組などで話題にのぼることも多い「eスポーツ」ですが、「聞いたことはあるけど、実際よくわからない」という方も多いのではないでしょうか?
eスポーツは、コンピューターゲームやビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称のこと。日本では2000年ごろから「eスポーツ」という名称が使われ始めました。大会の開催数やプロゲーミングチームは増加の一途をたどり、市場規模は2022年には100億円に達すると予測されています。
今回お話を伺ったのは、吉本興業が運営するeスポーツプロチーム「よしもとゲーミング」所属のプロゲーマー・うでぃさん。
うでぃさんはサッカーゲーム・ウイニングイレブンの日本代表選手として活躍されており、昨年12月に韓国にて開催された、世界47の国と地域が参加した世界大会「第11回eスポーツ ワールドチャンピオンシップ」では並みいる世界の強豪と戦い、準優勝を勝ち取りました。

※(c)Konami Digital Entertainment
今回はそんなうでぃさんに、ウイニングイレブンの魅力やeスポーツの現状、今後の展望などをたっぷり伺ってきました!
目次
リアルサッカーの楽しさをゲームで味わえるのがウイニングイレブンの魅力
——そもそも、「eスポーツ」の定義って何なんでしょうか?

現状は「この条件にあてはまるゲーム」といった明確な基準があるわけではないんです。コンピューターゲームやビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際に、「eスポーツ」という名称を使っています。
僕がプレイしているウイニングイレブンの他には、ストリートファイターや鉄拳、ぷよぷよやモンスターストライクなど、様々なゲームタイトルがeスポーツとして認知されています。
——ウイニングイレブンは、一言で言うとどんなゲームですか?

1人で1チーム・11人を操作して、対戦相手と競うサッカーゲームです。コナミが出しているゲームで、「ウイイレ」と略して呼ばれることが多いですね。
基本的なルールはサッカーと同じですが、戦術やゲームコンセプトを考えながら11人を操作するので、監督目線でプレイする感覚になれるのが通常のサッカーと違う魅力です。
——他にリアルサッカーとの違いはありますか。

リアルサッカーは前半後半合わせて90分ですが、ウイニングイレブンの公式大会は5分ハーフで10分間、延長PKがあればその時間がプラスされます。試合時間が短くピッチも狭いので、試合展開が早いんです。
あとは、見た目がリアルではありつつも、ゲームなので得点しやすいパターンがあります。そこもリアルサッカーとの違いですね。とはいえ、基本的にやることは通常のサッカーと変わらないので、自分の好きなサッカーをゲームの中で再現できるのは大きな魅力だと思います。
——ウイニングイレブンをやる時に、「この点を踏まえてプレイするといい」というポイントってありますか?

考えてプレイするのが一番大事なポイントですね。ウイニングイレブンは、感覚としてはチェスや将棋のようなボードゲームに似ているんですよ。10分間という短い時間の中ですばやく相手の戦略を読み取り、それを踏まえて自分の戦略を考えて潰す、という。頭をものすごく使わないと勝てないゲームですね。
軽い気持ちで参加した大会でやる気に火がつき、プロの道へ

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——数あるeスポーツの中で、なぜウイニングイレブンを選ばれたんですか。

eスポーツの中から選んだというより、サッカーが好きだったからウイニングイレブンを始めた、という流れでした。幼稚園から高校までずっとサッカーをやっていましたが、高校の3年間でやりきった感もありましたし、怪我も多かったので、大学に入った時にサッカーから一旦離れました。
でも、離れてみて「やっぱり自分はサッカーが好きだな」ということに改めて気づいたんです。違う形でサッカーをやろうと思って、ウイニングイレブンをやり始めました。
——最初は趣味として始められたんですね。eスポーツとしてウイニングイレブンに取り組むようになったのは、何かきっかけがあったんですか?

2017年に開催された「PES LEAGUE(ペスリーグ)」という大会に出場したのがきっかけです。
当時、オンライン対戦ではけっこう勝てていたんですが、大会には出たことがなくて。友達が出ると聞いて「じゃあ自分も出てみようかな」とオフ会に行くような軽い気持ちで行ってみたら、会場に入った瞬間、試験会場のようなピリピリした雰囲気で驚きました。本気で勝ちに来ている人しかいないんだ……と感じて、一気に気が引き締まりました。
——そんなピリピリしてるんですね……!雰囲気に萎縮してしまうことはなかったんですか?

いえ、その状況に逆に燃えたんです。横にいる対戦相手が点を決めた時にガッツポーズをしているのを見て、「絶対負かしてやる!」とアドレナリンがめちゃくちゃ出て、一気に本気モードになりました。
オンライン対戦の場合は、負けてもイラつくくらいでしたが、大会で負けた時は尋常じゃないくらい悔しくて。大会に出場して、観客や対戦相手がいる中で戦うことで、ウイニングイレブンの競技性を肌で感じました。オンライン対戦よりも、こっちの方が断然面白いって思いましたね。
そこから色々な大会にチャレンジしたり、YouTubeチャンネルを立ち上げたりと色々な活動を進めていく中で、スポンサーがつき、よしもとゲーミングに所属して……という流れで公にプロとして活動するようになりました。
——ちなみに、プロになるにはライセンス取得など条件があるんでしょうか。

「プロ」に明確な定義があるわけではないんです。「JeSU(日本eスポーツ連合)公認プロライセンス」というものはありますが、そのライセンスがなくてもプロとして活動している選手はたくさんいます。実際僕も、昨年の日本代表決定戦で優勝した際にJeSU公認プロライセンスを取得しましたが、その前からプロゲーマーとして活動していました。
「この条件にあてはまればプロ」ではなく、コンスタントに大会に出場して結果を残し、スポンサー企業と契約を結んだり、プロゲーミングチームに所属したりする中で、「プロ」として認知が広まっていく……というイメージです。
eスポーツで得たのは「メンタルの強さ」「時間を効率的に使う力」

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——うでぃさんがeスポーツを続けている一番の理由は何なんでしょうか?

ウイニングイレブンが好きだから、というのは大前提としてありますが、大会で優勝できた時の高揚感を味わいたいのが一番の理由です。
昨年開催された「GEO CUP 2019」で優勝した時が一番印象的でしたね。大きな大会で優勝したのが初めてだったので、本当に嬉しくて!あの何とも言えない高揚感は、人生でそう味わうことのない感覚で、オンライン対戦じゃ得られないんですよね。あの感覚をまた味わいたいから、日々の練習を頑張ろうと思えます。

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——続けてきたことで得たスキルはありますか。

メンタルはかなり鍛えられました。大会ではたくさん観客がいる前で試合をするので、独特の緊張感があるんです。オンライン対戦で強い選手でも、大会では緊張してしまって実力を発揮できないこともあります。
なので、eスポーツを始めたころよりも、緊張を楽しさに変えたり、モチベーションにうまく繋げられたりするようになってきました。
——そこは自宅でオンライン対戦をしているだけでは鍛えれらない部分ですね!

あとは、時間を効率的に使えるようになりましたね。最初のうちは毎日長時間やり込んでいたんですが、徐々に「これってあまり効率が良くないな」と思うようになって。そこで、1日の小さな目標を立てて、そこにフォーカスした練習をするスタイルに変えたら、短時間で密度の濃い練習ができるようになったんです。
僕は今大学生なんですが、eスポーツのおかげで勉強も以前より効率的にできるようになりましたし、生活リズムも整いました。
体格差や年齢は関係なし!自宅で気軽に始められるのも魅力

写真提供:日本eスポーツ連合
——どんな人にeスポーツは向いているんでしょうか?

向き不向きがないのがeスポーツのいいところだと思います。リアルスポーツのように男女差や体格差、年齢も関係ありません。ウイニングイレブンは、他のゲームと比較して年齢層が高くて、社会人の方も多いですね。スマホゲームだと中高生など若年層が多いです。
——始めたいと思ったら、ゲームソフトとゲーム機はマストで必要だと思いますが、それ以外に必要なものってありますか?

ゲームによっては、専用のコントローラーでしょうか。ウイニングイレブンに関しては、大会での使用を認められているのがPS4の純正コントローラーのみなので、別途コントローラーを用意する必要はありません。
あとは、ゲーミングチェアがあるといいかもしれませんね。僕は、スポンサーである「AKRacing(エーケーレーシング)」のチェアを使っています。椅子が正しい姿勢を保ってくれるので、長時間座っていても疲れにくいんです。デスクワークをされる方にもおすすめです。「AKRacing」だと2万円程度〜、ノーブランドでもっと安いものもあります。
——練習はどこで、1日何時間くらい行うものなんでしょうか?

どのゲームタイトルの選手も、基本的には自宅でオンライン対戦をしていると思います。時間としては、僕の場合は最低1時間、マックスで5〜6時間ですね。平均すると3時間程度でしょうか。プロゲーマーの中では練習時間は短い方です。
——1日1時間程度なら、平日仕事をしている社会人でも時間を作れそうですね。

そうですね!自信がついてきたら大会に出てみるのもいいと思います。1日で終わる小規模な大会から、本戦の前に3ヶ月くらいかけてオンライン上で予選を行う大規模な大会まで幅広くあります。ぜひチャレンジしてみて欲しいですね!
eスポーツを通じて「ゲームは悪いものじゃない」と伝えていきたい

写真提供:日本eスポーツ連合
——従来は遊びとして楽しむものだった「ゲーム」が「eスポーツ」という名称で競技として扱われるようになりました。この変化について、うでぃさんはどう感じていますか?

最初にeスポーツという言葉を聞いた時は「スポーツにわざわざ寄せなくてもいいんじゃないかな」と思いました。リアルスポーツをやっている方の中には「これがスポーツ?」と疑問を感じる方もいるでしょうし。
ただ、一般の方に競技性を伝えるという意味では「ゲーム」よりも「eスポーツ」のほうがいいのかなと。日本ではまだ「ゲーム=遊びでしょ?」という印象を持っている方が多いですし、中にはゲームは良くないものだと思っている方もいるので。
——たしかに、ゲームに対して良くない印象を持っている方もいらっしゃいますよね。

最近だと、自治体が1日のゲーム時間を規制したとか、ゲームが原因で不登校につながっている……なんてニュースも目にしますよね。
でも、ゲームをやり過ぎてしまうのが問題なのであって、「ゲーム=悪いもの」という訳ではないんです。何事もやり過ぎたら悪になるじゃないですか。食事だって、食べ過ぎたら健康を害してしまいますし。
——ゲームに限らず何でもそうですよね。

そういったニュースを見て僕が思うのは、ひとつは日常生活に支障をきたすくらいゲームにハマり過ぎてしまっているのは、ごく一部の人だということ。学業や仕事などをきちんとやった上で、節度を保ってゲームを楽しんでいる人が大多数なんです。
二つ目としては、ゲームにハマって不登校になってしまった人がいたとして、ゲームを禁止するのは問題の解決にはつながらない、ということ。「なぜ今学校に行かなければいけないのか」を理解させるのが、まずは大事なんじゃないでしょうか。
——禁止するのは逆効果ということですね。

僕たちプロゲーマーが、そういう子たちに「今は学校に行ったほうがいいよ」と伝えていく活動もできたらいいですね。知らない大人に「ゲームをするな!」と言われるよりも、自分がプレイしているゲームのプロ選手に言われた方が聞き入れやすいと思うので。
僕はゲームが好きだし、eスポーツをもっと盛り上げていきたいので、「ゲームって悪いものじゃないんだよ!」というのは、これからも声を大にして言い続けたいです。
——うでぃさんの今後の展望を教えてください!

現在は「プロゲーマーで生計を立てる方法」が明確に確立されている訳ではないので、まずは自分自身がそこを確立させていきたいですね。
僕は今年大学を卒業して、よしもとゲーミング所属のプロゲーマーとして活動していく予定なので、色々試す中でプロとして食っていく方法を確立して、周りにもそれを伝えていけたらと。
——ゲームで生計を立てる方法を確立して、他のゲーマーにもシェアしていきたいと。

自分だけが食っていければいいというよりは、コミュニティに還元したい気持ちが強いです。ウイニングイレブンが長く愛され続けるゲームであってほしいから、そのためにもゲームを中心としたコミュニティが盛り上がったらいいなと。
プロゲーミングチームを作りたい気持ちもありますし、最終的には、ゲーマーのよりどころになるようなゲームバーを作るのが夢です。夢を夢のまま終わらせないように、今やるべきことをしっかりと積み重ねていきたいです。
——最後に、eスポーツを始めようとしている人へメッセージをお願いします!

趣味としてゲームをやる「楽しさ」以上の刺激を求めたい方は、ぜひeスポーツとして取り組んでいただけたらと思います!
練習時間を多く取れる専業プロゲーマーのほうが有利ではありますが、大会では実力以外にメンタルによって勝敗が分かれる部分も大きいので、仕事とeスポーツを両立しつつ、ランキング上位を狙うことも不可能ではないかなと。
大会やイベントに出ると友達もできるので、楽しいですよ! ウイニングイレブンじゃなくてもいいので、たくさんのゲームタイトルの中からハマれるものをぜひ見つけていただきたいですね。
——ありがとうございました!
eスポーツを始めるのにかかる費用
ゲームソフト | ウイニングイレブン2020の場合、税込8,208円〜(ゲームタイトルによって異なる) |
ゲーム機 | PS4の場合、税込32,378円〜(PC、スマホ、PS4などゲームタイトルによって異なる) |
ゲーミングチェア | 2万円程度〜(商品により異なる) |