1968年、アメリカの高校生によって考案された7人制スポーツ「アルティメット」。2001年から「第2のオリンピック」といわれるワールドゲームズの公式種目となり、2028年に開催されるロサンゼルスオリンピックの追加種目として採用が検討されているなど、マイナースポーツのなかでも特に認知度が高い競技です。
今回お話を伺ったのは、アルティメット日本代表として国際大会に5回の出場経験がある中野源一選手。東京都フライングディスク協会事務局員として、アルティメットの普及活動にも注力されています。
中野選手に、アルティメットの醍醐味や今後の展望、現在行なっている普及活動などについて語っていただきました。
目次
「アルティメット」はバスケとアメフトを融合させたようなスポーツ
――「アルティメット」という名前はなんとなく聞いたことがありました。あらためて、どんなスポーツなのか教えてください。

アルティメットの語源は英語の「究極 (ultimate) 」で、投げる・走る・跳ぶといったさまざまな能力が必要な究極のスポーツであるということから名付けられました。
試合は37×100mのコート内で行われ、フライングディスク(通称フリスビー)を「エンドゾーン」といわれる相手陣地の端まで落とさずにパスでつなぎます。試合時間は前後半ともに50分の計100分で、大会ごとに定められた点数を先取したチームが勝利。男子のみの「メン」、女子のみの「ウィメン」、男女混合の「ミックス」の3部門があります。
ルールは大きく5つで、エンドゾーンでディスクをキャッチすると1点、ディスクを地面に落としたら攻守交代、ディスクを持っている人は歩いてはいけない、身体接触禁止、審判なしのセルフジャッジ。よく「バスケットボールとアメリカンフットボールを融合させたようなスポーツ」と言われますね。

試合で使用される「フライングディスク(通称フリスビー)。
――ありがとうございます。審判がいないスポーツはめずらしいですね!

そうなんですよ。選手がルールを熟知し、プレーしながら審判の役割も担います。「ぶつかった」「コート外でキャッチした」などは基本的に当事者同士で話し合い、解決しなかった場合には1つ前のプレーに戻します。
独自性でいうと、ディスクは風の影響を受けやすいので、平等になるように得点が入るたびに攻守が陣地を入れ替えます。また、そのタイミングで選手交代が可能です。
迫力のあるダイビングキャッチ、華麗なパスワークが魅力
――中野選手が初めてアルティメットの存在を知ったのはいつですか?

高校3年生のときです。10年間サッカーのゴールキーパーをやっていたんですが、「大学サッカーで通用するほど自分には能力がない」と思っていました。何か違うことをやりたいと考えていたタイミングで、たまたま見ていたテレビでアルティメットが紹介されていたんです。
――どんな印象を抱きました?

サッカーのキーパーと共通点が多いと感じました。どちらがより高いところでディスクをキャッチできるかというシチュエーションや、飛んできたディスクをダイビングキャッチするところなんかはキーパーの動きと近いので、「自分にもできるんじゃないか」と思いましたね。
――実際にアルティメットを始めることになったきっかけはなんですか?

大学入学後、新歓期にいろんな部活を見学するなかでアルティメットも見に行きました。そこで話した先輩が日本代表選手で、「君も今始めれば日本代表選手になれるよ」と言われたんです。まだあまり知られていない競技ではありましたが、「日本代表」を目指すのであれば、挑戦する価値があるだろうと思い入部を決めました。
――やってみてどうでした?最初からうまくいきましたか?

全然!(笑)最初はディスクを投げるのがヘタで、思い通りの方向に飛ばせませんでした。ボールと違ってディスクは落下点が予想しづらいので、タイミングを合わせてジャンプするのも感覚をつかむまで大変でしたね。
――やはりボールとは全然感覚が違うんですね!ディスクをまっすぐ遠くに飛ばすにはどうしたらいいんですか?

ディスクは回転がかかると遠くへ飛ぶので、手首のスナップで回転を効かせます。そこに腕の振りも加えることで、さらに勢いがつくんです。このときにディスクが上下に傾きがちなのですが、ディスクを地面と水平な状態にするを意識するとまっすぐに飛びますよ。

ビーチで行う「ビーチアルティメット」という競技も!
――なるほど、ありがとうございます!中野選手が考えるアルティメットの醍醐味はなんでしょう?

迫力とテクニックですね。ディスクを落とさないようにダイビングキャッチをしたり、相手選手と高い位置で競り合ったりするシーンは迫力満点です。また、自分とパスをしたい味方の間に相手選手がいた場合でも、ディスクを投げるときにカーブをかけることでかわすことができます。そういったファインプレーは試合でとても盛り上がりますね。
他にも、フェアプレー精神に基づいたセルフジャッジや性別にとらわれないミックス部門など、時代の流れに合っているスポーツなので、将来性があるとも考えています。2001年から「第2のオリンピック」といわれるワールドゲームズの公式種目となり、2028年のロサンゼルスオリンピックの追加種目になる可能性が大きいと言われているんです。競技者としても普及させる立場の人間としても、一番面白いタイミングで携われていると思いますね。
――中野選手が初めて日本代表に選ばれたのはいつですか?

大学3年生のときに年齢制限のないA代表に選んでいただき、アジア大会へ出場しました。実は大学2年生のときにアンダー24の選考に落ちたんですよ。同期の2人が受かったこともあってめちゃくちゃ悔しくて……。その経験があったので、最年少(当時)で、社会人が9割のA代表に選んでいただけたときはものすごく嬉しかったですね!
これまで、日本代表としては国際大会に5回出場。世界U-24アルティメット選手権大会ではキャプテンも務めさせていただきました。
――すごい活躍ぶりですね!これまでの競技人生の中で、もっとも印象に残っている出来事はなんですか?

大学4年生のときに日本代表として出場したワールドカップです。僕がいたミックス部門は6位という結果に終わったのですが、メン部門は2位。決勝戦でメン部門の同期や後輩たちを観客として応援するのは複雑な気持ちでした。「ピッチで戦っている選手と観客席にいる自分の間にはこんなにも大きな壁があるのか」と、とても悔しかったです。あの場面は今でも脳裏に焼きついていますね。
――中野選手がメン部門ではなく、ミックス部門で出場を続けているのはぜですか?

男女混合ならではの面白さや奥深さがあるんです。男性と女性は身体能力に差があるので、お互いに相手の強みを最大限活かす動きをする必要があります。頭を使う場面が多いので、ミックス部門でプレーするようになってから、視野が広がり投げる技術も上がりました。
――今後の夢や目標を教えてください!

ロサンゼルスオリンピックが開催される2028年、34歳の僕は間違いなくまだ競技を続けています。なので、アルティメットがオリンピックの追加種目になるならば、日本代表として世界の舞台で戦い「世界一」を獲りたいです!
気軽にリフレッシュでき、人のつながりをつくるコミュニティを主催
――中野選手は小中学校で子どもたちにアルティメットを教えてらっしゃるんですよね。

はい、月2回ほど、1年間で1,000人以上の子どもたちにアルティメットを教えています。というのも、アンダー24の代表としてアメリカと戦ったとき、そこまで力の差を感じませんでした。しかし、その翌年のクラブチームのワールドカップでは、ミックス部門の上位5チームがすべてアメリカのチーム。日本はベスト16にも入れませんでした。
この違いは何かと考えたところ、まずアメリカでは子どもの頃からフライングディスクに触れる機会があるんですね。また、日本は大会によってミックス部門がないのに対し、アメリカには当たり前に存在している。そもそもの環境に違いがあることに気がつきました。
このままではアルティメットがオリンピックの公式種目になったとしても、日本は世界一になれません。現役の僕らがうまくなるのはもちろん、下の世代を育てる必要があると思ったんです。そこで、アルティメットを体験する機会や楽しさを知ってもらうきっかけをつくりたいと、この活動を始めました。
――アルティメットを体験してみたい人は、どうしたらいいのでしょうか?

2019年の夏から月1〜2回、都内の体育館で未経験の社会人向けにゆるっとアルティメットを体験できる「ゆるティメット」というイベントを開催しています。心や身体のリフレッシュだけでなく、人とのつながりをつくる場になればと思い始めたコミュニティです。
申し込みはイベントアプリの「Peatix(ピーティックス)」からできます。僕のTwitterアカウントでも告知しているので、直接問い合わせをいただいても構いません。
――最後に、これからアルティメット始めてみたいと考えている方に向けてメッセージをお願いします!

アルティメットは男女別け隔てなく、誰もが気軽に始められ、生涯にわたって親しめます。「ゆるティメット」はリフレッシュにも友人づくりにもぴったり。ぜひ一度お越しください。楽しみにお待ちしています!
――ありがとうございました!
アルティメットにかかる費用
ゆるティメット参加費 | 500円〜1,000円 ※体育館の利用料金を参加人数(10〜20人程度)で割って計算 |
シューズ(体育館用) | 2,500円〜 |