プラスチックカップをものすごい速さで積み上げて崩し、タイムを競う「スポーツスタッキング」。テレビなどで見たことはあっても、実際にやったことがある人は少ないのではないでしょうか。
今回取材したのは、スポーツスタッキング日本初代チャンピオンで、世界大会でも優勝経験があり、現在も選手として活躍されている瀬尾剛さん。
瀬尾さんは、スポーツスタッキングを普及させるため、小学校や児童館で教室を開催しています。またプロパフォーマーとして、ジャグリングとスポーツスタッキングを組み合わせたショーも披露しています。
「スポーツスタッキングってどんな競技なの?」「瀬尾さんがスポーツスタッキングを始めたきっかけは?」「スポーツスタッキングをやりたくなったら何から始めたらいいの?」など、色々なお話を聞いてきました!
目次
世界記録は1秒台!1000分の1秒を競う「スポーツスタッキング」
——スポーツスタッキングはどんなスポーツなんでしょうか?

12個のプラスチックカップを決められた形に積み上げてから崩し、そのタイムを競うスポーツです。1985年ごろにアメリカの子どもたちが紙コップで遊んでいたのが始まりで、現在ではヨーロッパやアジアなど、世界54カ国で楽しまれています。
——「決められた形」というのは、具体的にどんな形なんですか?

「3-3-3」「3-6-3」「サイクル」という3つの種目があるんです。
「3-3-3」は、3つのカップで作る山を左から順に3つ並べて、左から順に崩す、というもの。

3-3-3

「3-6-3」は、「3-3-3」の真ん中が6つのカップで作る山になったものですね。こちらも左から順に3つの山を作り、また左から順に崩します。

3-6-3

「サイクル」は、3つのパートに分かれています。
最初に「3-6-3」をやります。
次は「6-6」、6つのカップを使った山を2つ作り、崩します。
最後に「1-10-1」。まずは左右に1つずつ、片方が逆さまになる形でカップを置きます。そして中央に10個のカップで山を作り、崩す。
これで完了です。「サイクル」は3種目の中ではいわゆる花形の競技ですね。
↓2019年のJAPAN OPEN大会で自己最高記録を出した瀬尾さんの「サイクル」
本番の試技は3回。
— 瀬尾剛(SEOPPI) (@performerseoppi) July 18, 2019
1回目:落ち着いて8秒台
2回目:7秒台を狙って失敗(11秒台)
3回目:動画
この日の為に練習を積み重ねてきましたが、それ以上に会場にいた沢山の方々の応援がとても大きな支えとなりました。
ビデオ審査が通ればマスターズ部門日本新記録。公式大会自己最高記録です!
嬉しい!!! pic.twitter.com/o7u9A0R1wJ
——3種目それぞれのタイムって何秒くらいなんですか?

日本大会の決勝に進めるレベルのタイム感でいえば、「3-3-3」は2秒台、「3-6-3」は3秒台、「サイクル」が9秒〜10秒台くらいです。世界記録になると「3-3-3」であれば1秒台ですね。
大会ではそれぞれの種目について、練習を2回・本番を3回行い、本番3回の中で1番速かったタイムがその人の記録になります。
——1秒台って瞬きしたら見逃してしまうレベルですね……!男女別だったり、階級が分かれていたりするんでしょうか?

男女別・年代別に順位が出されます。さらにそのなかで「3-3-3」「3-6-3」「サイクル」のそれぞれのタイムの上位選手と、3種目総合の上位選手にメダルやトロフィーが出ます。
個人戦以外に団体戦(リレー、ダブルス)もありますし、国際大会では「インターナショナルチャレンジ」という、国別対抗リレーも行われます。
——現在スポーツスタッキングが強い国はどこですか?

最初は発祥の地であるアメリカが強くて、その後ドイツが強い時期がありましたが、今はどの国も強さが拮抗していますね。現在世界記録を持っているのは、マレーシア・韓国・アメリカの選手ですが、同じくらいのタイムを出せる選手が色々な国にいます。最近はアジアでも韓国・中国・台湾などでかなり強い選手が増えてきていますね。
失敗が頻繁に起こる競技なので、順位の入れ替わりも激しいんです。1000分の1秒単位で競い合っています。
——1000分の1秒!すごい世界ですね。日本の競技人口はどのくらいいるんですか?

大会に出場するような選手層は80名くらいで、高校生以下が7割を占めています。趣味として楽しんでいる人も含めると、全体としては約1万人です。
日本はまだまだ競技人口が少ないですが、海外では反射神経や集中力を鍛える目的で、小学校の体育の授業にも取り入れられていて、身近なスポーツなんです。
——学校の授業でスポーツスタッキングがあったら、確かにハマる人増えそうですね!

世界的に見ると、競技人口もどんどん増えているんですよ。
アメリカのスポーツスタッキング協会本部では、全世界で同時刻にスポーツスタッキングをした人数のギネス記録に挑戦する「スタックアップ」という企画を毎年主催していて、参加者は年々増えています。
始めの頃は数万人ほどでしたが、昨年は60万人以上が参加しました。日本でももっと競技人口が増えていけばいいなと思って、普及活動を進めています。
ジャグリング×スポーツスタッキングで唯一無二のパフォーマーに
——瀬尾さんの普段のお仕事について教えてください。

パフォーマーとしての仕事と、競技者としての仕事の2つがあります。
パフォーマーとしては、主に土日祝日に商業施設などで、ジャグリングとスポーツスタッキングを掛け合わせたショーを行っています。定期的にやっているのは、イクスピアリでのショーですね。他には、企業パーティーなどでパフォーマンスをすることもあります。
競技者としては、スポーツスタッキングを教える教室を定期的に開催しています。綱島カルチャーセンターで第1・第3水曜日の18〜19時にやっています。お子さんからご年配の方まで、幅広くご参加いただいています。
2日続けてのイクスピアリパフォーマンス、無事終了しました。
— 瀬尾剛(SEOPPI) (@performerseoppi) May 19, 2019
暑い中見に来てくださった皆様、ありがとうございました!
昨日から新しいシェーカーカップを初お披露目。
黄と緑、どちらも好みの色だし新しいショーの雰囲気にもぴったしな感じで気に入っています♪ pic.twitter.com/4QR47rKKml
——スポーツスタッキングは、いつ頃、どんなきっかけで始めたのでしょうか。

始めたのは中学3年のときです。テレビでジャグリングを見て興味が湧いて、ジャグリングをやっている同級生がたまたまいたので、道具を借りてやるようになりました。そのうち自分用の道具が欲しくなってジャグリング専門店に行ったら、そこにスポーツスタッキングの道具がたまたま置いてあって(笑)。
試しにやってみたら「なんだこれ、めちゃくちゃ楽しい!」とハマり、ジャグリングの道具と一緒にスポーツスタッキングの道具も購入しました。そこからどんどんのめり込んでいって、高校・大学とスポーツスタッキングを続けて、大会にも出るようになりました。
——パフォーマンスをお仕事にされたのは、どんな経緯だったんですか。

大学卒業後、スポーツジムのインストラクターとして一度は就職したんです。スポーツスタッキングをトレーニングに取り入れられたらと考えていましたが、まず社内に「そもそもスポーツスタッキングとは」を浸透させるところから始める必要がありましたし、他にも覚えなければいけない仕事がたくさんあるので、スポーツスタッキングのことばかり考えているわけにもいきません。
やりたいことがあるのに、そこに思うように時間が使えないのはもったいないと感じて、会社を辞めてパフォーマーの道を選ぶことにしました。
——会社を辞めてパフォーマーに転身って思い切った選択ですよね。仕事はどのように獲得していったのですか?

中学でジャグリングと出会うきっかけをくれた友達が、高校からパフォーマーとして活動していたので、彼の助けも借りながら仕事を始めました。彼とは今でも一緒にコラボしてステージをやることもあります。

パフォーマー同士の繋がりにも助けられましたね。スポーツスタッキングをパフォーマンスに取り入れているのは世界でも自分しかいないので、ほかのパフォーマーの方に声をかけてもらえる機会も多くて。そこから業界内で噂が広まって、徐々に仕事の依頼をいただける機会が増えていきました。
いろんな人に助けてもらって今の自分があるので、本当にありがたいです。
大人が子どもの気持ちに戻って楽しめるのがスポーツスタッキングの魅力!
——競技をする中で、嬉しさを感じるのはどんなときですか。

ベストタイムを出せたときは、単純に嬉しいですね。最初のうちは、練習すればするほど速くなりますが、ある程度慣れるとタイムが縮まなくなる瞬間が来るんです。少しずつタイムを削っていく中で、目標タイムを達成できたときは「よっしゃー!」と思わず声が出てしまうくらい嬉しいです。
——逆に、「これは辛かったな」というエピソードはありますか?

2009年、20歳のときに世界大会で優勝して以来、タイムが伸び悩んでしまって。どうにか縮めたいと思って、速い選手の動画をコマ送りで見ながら、その選手の動きをコピーしようと、ものすごく細かい部分にこだわって練習をするようになったんです。
でも、数秒で終わる競技の中で細かい動きをコピーするなんて、ほぼ不可能なんですよ。当時はその事に気づかず、1年くらいその練習を続けていて、ふと気づいたら他の国の選手に大きく遅れを取ってしまいました。
——それはショックですね……。

あのときは本当に落ち込みましたが、就職で一度スポーツスタッキングから距離を置いたことで、いい意味でストイックさが取れたんです。会社を辞めてスポーツスタッキングを再開してからは、自分なりのスタイルを追求しながらタイムを縮める練習の仕方に変えました。今は楽しみながら続けられています。
——スポーツスタッキングのここが魅力!というポイントを教えてください。

自分が上達しているのがタイムとして目に見える「わかりやすさ」が、大きな魅力です。練習をすればするほどタイムが縮んで達成感が得られますし、他の人とタイムを競い合うのもすごく楽しいですよ!大人が子どもの気持ちに戻って楽しめるスポーツだと思います。
あとは、集中力がアップする効果もあります。アメリカの大学の研究で、小学生がスポーツスタッキングを1ヶ月間毎日実施したところ、反射神経と集中力が30%アップしたという研究結果が出たそうです。実際に自分も、スポーツスタッキングを始めてから、学校の成績がかなり上がりました。
——パフォーマーとして活動する中で、意識していることを教えてください。

パフォーマーとしては「スポーツスタッキングを生で見る機会を提供したい」という思いで活動をしています。スポーツスタッキングの認知度は徐々に上がっていますが、生で見たことがない人がほとんどだと思うので、パフォーマンスに取り入れることでスポーツスタッキングの魅力をより伝えていけたらなと。
——競技者として大切にしていることはありますか?

競技者として教えるときには、まずは楽しんでもらうことを大切にしています。最初から「大会を目指そう!」と言ってしまうと、身構えてしまうので。続ける中で、素質がありそうな人には、大会を案内して選手として活動するよう促すこともあります。
私の教室で習ったのがきっかけで、日本代表として海外で活躍する選手も数名出てきました。地道ではありますが、少しずつ競技人口を増やしていけたらいいと思っています。
趣味として気軽に始めるもよし、メダルを目指して本気になるもよし!
——スポーツスタッキングにはどんな道具を使うんですか?

12個セットのカップ・マット・タイマーの3つが必要な道具です。最低限必要なのはカップですが、マットがあったほうがやりやすいと思います。タイムを測って本格的にやりたいなら、タイマーがあるといいですね。

おすすめは、WSSA(世界スポーツスタッキング協会)公認ブランド「スピードスタックス」のもの。3つセットで13,145円で購入できます。非公認ブランドの道具を試しに使ったこともありますが使いにくかったので、公認ブランドを購入したほうがいいと思います。
カップとマットとタイマー、それとテーブルさえあれば、どこでも練習が可能です。
——試合や大会はどのくらいの頻度で行われているんでしょうか。

日本大会が年に2回、世界大会とアジア大会がそれぞれ年に1回ずつ開催されています。一部の大会は、一般の方も協会のサイトから出場申し込みができます。
ちなみに2020年1月に開催された日本大会のマスターズ部門で、個人総合優勝を果たしました。直近では4月にシンガポールで開催される世界大会に出場する予定です。年々選手層が厚くなっているので、結果を残せるよう気を引き締めていきたいと思っています!
【ジャパンカップ結果報告】
— 瀬尾剛(SEOPPI) (@performerseoppi) January 19, 2020
個人戦3種目、団体戦2種目、全ての種目でマスターズ部門総合優勝!
ビデオ審査が通れば日本新記録になる可能性があるタイムも出ました。
良いタイムが出せずに悔いが残る部分もありましたが、結果を残せて一安心。
応援してくださった皆様、ありがとうございました! pic.twitter.com/Rmb1fI9LKp
——今後挑戦したいことや目標を教えてください。

正直なところ「10年後にはこうなりたい」といったビジョンは立てていません。というのも、プレイヤーやパフォーマーを仕事としてやっているのが自分しかおらず、前例がないからどうなるか分からないんですよ。
シンプルに、もっといろんな現場に行って、スポーツスタッキングのことを楽しんでもらえる活動をしていきたいと思っています。
——スポーツスタッキングはどんな人におすすめですか?

「こんなタイプの人におすすめ」とか年齢も関係なくて、誰でもできるスポーツなんです。やり方はシンプルなのですぐ覚えられますし、数秒で終わる競技なので体力も必要ありません。運動神経の良し悪しも関係ないですね。基本は立って行いますが、足が悪い人は座っても構いません。車椅子の選手もいます。
——スポーツスタッキングを始めたいと思った場合、まずは何から始めたらいいんでしょうか。

「まずは一人で始めてみよう」ということであれば、協会のWebサイトにやり方の動画が掲載されているので、それを見ながら気軽に始めることができます。ただ、レッスンを受けて練習したほうが上達は早いので、ご興味があれば綱島カルチャーセンターでのレッスンにぜひ来てみてください!
——最後に、スポーツスタッキングを始めようとしている人へメッセージをお願いします!

「特技をひとつ増やそう」くらいの気軽な気持ちで始めてもらえたらいいなと。
タイムを競い合う相手がいたほうが楽しいので、ぜひ誰かと一緒にやってみてほしいですね。オフィスの休憩室にスポーツスタッキングの道具を置いておいて、リフレッシュも兼ねてみんなでワイワイ競い合う、という方もいましたよ。
——社内の交流も増えそうですね。

もちろん「競技者として本気で取り組みたい」というのも大歓迎です!スポーツスタッキングは高校生以下の選手層は厚いのですが、20代以降の部門であれば今から始めてもメダルを狙える可能性は十分あります。迷っているならぜひやってみていただきたいですね!
——瀬尾さん、ありがとうございました!
スポーツスタッキングを始める際の費用
スポーツスタッキング 初心者一式 | 13,145円 |
瀬尾さん講座 受講料(@綱島カルチャーセンター) | 4,840円 |