日々色好日 #57 「藤黄-touou-」

特集

日々色好日 #57 「藤黄-touou-」

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数年前の秋、雲のない晴れた日。母方の祖父の葬儀が行われました。

略式の湯灌の儀を終えて死に化粧をする、という流れだったと思うのですが、死に化粧前に湯灌師が取り出したのは美容フェイスパック。

それを見た祖母が「あれあれ、じいさん」と笑い、父や母、姉や私もつられて泣きながら笑ってしまいました。

別れの寂しさは当然あったし、側から見たら不謹慎だったかもしれませんが、お茶目でちょっとぬけている祖父が最後に残してくれた家族の思い出です。

あの日の「さよなら」は、今までの私の人生でいちばん明るく、寂しささえも美しく鮮やかに彩る、そんな別れでした。

あなたにはどんな思い出の「さよなら」がありますか?

それでは、本日の伝統色を紹介します。

伝統色紹介:藤黄-touou-

藤黄はほのかに鮮やかな黄色のこと。草雌黄(くさしおう)という植物からとれる顔料の「藤黄」にちなんでいます。

藤黄の別名は雌黄(しおう)で、中国で詩の添削を行うときにこの顔料をよく使用していたことから、添削・批評をすることを「雌黄を加える」とも言い表します。

歴史の古い色で、奈良時代の文献に記載されており、江戸時代には友禅染に欠かせない顔料として、そして明治時代には日本画・洋画の絵の具としても利用されました。

作品紹介:『勧酒』于武陵 訳:井伏鱒二

 
(原文:于武陵)

勧君金屈卮

満酌不須辞

花発多風雨

人生足別離 

 

(邦訳:井伏鱒二)

コノサカズキヲ受ケテクレ

ドウゾナミナミツガシテオクレ

ハナニアラシノタトヘモアルゾ

「サヨナラ」ダケガ人生ダ

 

『勧酒』は中国の詩人・于武陵の作った漢詩。その詩を『山椒魚』で有名な作家・井伏鱒二が訳したものは「名訳」とされています。

「さよなら」だけが人生だという一節はとても有名なので、どこかで聞いたことがある人も多いはず。

ちなみに井伏鱒二『厄除け詩集』(講談社文庫)には『勧酒』の原文と訳文がそれぞれ収録されていて、華やかでいて少し寂しさも感じる原文の美しさと、そこに漂う空気感までとらえて絶妙に日本語にした訳文の巧みさの両方を味わます。

この詩には情景の美しさだけではなく、出会いと別れについての大切なことがたくさんつまっていると感じます。

別れは悲しいことだけれど、だからこそ今が美しく輝くのだということ。

忘れそうになるたびに思い出したい、ずっと大切にしている、私にとって特別な詩です。

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