この連載が始まってから、紹介する伝統色名がきっかけになって忘れていた風景を思い出すことが増えました。
たとえばメタセコイアのこと。メタセコイアは高さ30mまで成長するヒノキ科の樹木で、通っていた小学校の校庭には何故かこの大きな木が植えられていました。
写生大会の日にメタセコイアを描いたこと。地べたに体育座りをして、膝の上に画板を置いていたこと。絵具のにおい、秋の日差し、学校のチャイム……。
一度も思い出したことのない記憶ですが、頭の中の引き出しには律儀にしまってあったみたいです。
それでは、本日の伝統色を紹介します。
目次
伝統色紹介:紅檜皮-benihihada-
紅檜皮(べにひはだ)は樹の皮を剥いだ時のような赤茶色です。
檜皮とはヒノキやスギなどの樹木の皮のことで、檜皮色は赤褐色を指します。
庶民のための染色として、蘇芳や楊梅などが染料として用いられました。
作品紹介:『ものするひと』オカヤイヅミ
(あらすじ)
「言葉が空に浮かんでて、世界がいつもと違ってみえる」
純文学の新人賞を受賞したものの、警備員のバイトをしながら小説を書いている主人公の杉浦紺(30)。淡々と過ぎてゆく日々の中に「言葉」と「書くこと」そして「生きること」の強い存在を感じる、オカヤイヅミによる漫画作品。シリーズは全3巻完結。
作中で語られる「0を1にすることで触れられる世界」について、読むたびに想いをはせます。
何もない場所から何かを生み出すこと。
主人公は小説を書きますが、「0を1にする」のは文章を書くことだけではなく、生きることそのものにも言えることだなと感じました。
この作品は何かを具体的に言葉にはせず、そこに流れる空気を読ませる。そしてその空気にさえもいくつかの別の意味が含まれている。
読み返すたびに印象が変わり、真夜中の雨のように深く心にしみていくお気に入りの漫画作品です。