【今週のことばたち#6】私が人生を知ったのは、人と接したからではなく、本と接したからである(アナトール・フランス)

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【今週のことばたち#6】私が人生を知ったのは、人と接したからではなく、本と接したからである(アナトール・フランス)

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もうすぐ秋ですね

こんにちは。夏の入り口頃からはじまったこの連載も6回目を迎え、季節は秋に入ろうとしています。といってもまだ9月ですから、まだまだ秋は遠い季節だとは思いますが……。

個人的に秋は大好きな季節です。空気はしっとりと静かになり、蒸し暑さはどこかへ消え、爽やかな風が吹き抜けるようになります。そこに金木犀の香りなんかがやってくると、なんだか本当に幸せな気持ちになります。それにしても、金木犀のあの香りって、なんであんなに記憶を呼び覚ますのでしょうか。金木犀の香りを嗅ぐと、小学3年生の頃の初恋を思い出します……。

脇道にそれました。そんな人をノスタルジックな思い出に浸らせてくれる秋ですが、秋といえば、どんな秋をイメージするでしょうか。食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋……。色んな秋があって、どの秋も大好きですが、今日は読書の秋について、少しだけ深堀りできたらな、と思います。

アナトール・フランスという人

今回紹介する名言を残したアナトール・フランスは、1844年生まれのフランスの詩人・小説家・批評家です。知らない方も多いかも知れませんが、フランス文学の最高峰とも称され、1921年にはノーベル文学賞を受賞、あの芥川龍之介も傾倒していたそうです。

それでは、そんなアナトール・フランスが残したことばを「読書」の不思議について紐解きながら深堀りしてみます。

読書はお好きですか?

突然ですが、読書ってお好きですか? ご飯食べるもの忘れるくらい読書が好きだ! という人もいるでしょうし、幼い頃の読書感想文や読書の時間(朝の時間にありませんでしたか?)などのせいで、なんとなく嫌いだという人もいるかと思います。

僕自身は(何回も連載を読んでいる方がいたら、なんとなく気づいている方もいると思いますが)、読書が大好きです。ご飯も同じくらい好きなので、食事を忘れるほどのめり込むことはあまりありませんが(笑)、それでも幼い頃から図書館や本屋さんが大好きで、学生時代も3年くらい本屋さんでアルバイトをしていました。

同じように読書好きの方でも、社会人になってからというもの、なかなか時間が取れず、最近はほとんど読書なんてできていない……。という方も多いのではないかと思います。読み出せば面白いのは分かっているんだけど、しばらく活字から離れていると、また読むのが少し億劫になりますよね。ましてや今の時代はスマホ全盛で、ワンタッチで溢れんばかりの情報に接することができるので、わざわざ本を開いてじっくり文字を追うのはハードルが高くなっている気がします。僕自身もここ何年か、読書から少し離れてしまっている気がします。

現代にアナトール・フランスがいたら…

もし、今の世界を見たらきっと、アナトール・フランスは小さな画面をひたすら見続ける僕らを見て、驚くと思います。そして、しばらくして怒ると思います。「もっと本を読め!」と。

完全に妄想ではあるのですが、なんせ「私が人生を知ったのは、人と接したからではなく、本と接したからである」と言うくらいの人です。はっきり言ってしまえば、読書オタクです。絶対にそういうに違いありません。

このように、人生を知ったのは本と接したからだ、と言われると、「なるほど」と思う一方で、いや経験も同じくらい大事なんじゃないの? と言う方も多いんじゃないかと思います。そして、その経験による学びこそ、この名言でいう人と接して学ぶことを表していると思います。

人による学びと本による学び

僕自身が本好きな子供だったこともあり、このような「本ばっかり読んでないで、人生経験を深めなさい」といったことはよく言われてきました。その度に僕も「そうだよなあ」とは思いつつ、なかなか勇気が出なくて、本の世界をベースに生きていた記憶があります。きっと、世間的には経験は大事という考え方は強いんじゃないかと思います。

それでもアナトール・フランスは、読書によって人生は知ることができると言っているわけです。少し極端にも聞こえますが、もしかしたら本でしか学べないこと、本にしかできないこともあるような気がしています。

それは、「話せない人との対話」です。本というのは、誰かが「これは世界に伝えたい」「これは世界に残してみたい」と思い立ち、時間と労力をかけ、それを活字にして、場合によってはそこに編集の人が入り、原稿が完成し、本として印刷・製本されることで僕たちの手に届きます。電子書籍の場合はまた少し違いますが、いずれにせよ、誰かのことばが色んな人の手を経て、僕たちの手に届くことには間違いありません。

そして、この仕組みによって生まれる本というメディアは、「話せない人と話せる」という特筆を持つことになります。ここでいう話せない人というのは、現代で活躍しており直接会って話すのは難しいという人だけでなく(本来は言語のやり取りが出来ないはずの)、海外の人や、現在は亡くなっており、会うことはできない"過去の人"が含まれます。

話せない人との対話

上で書いたとおり、本というメディアは、その特筆によって、海外の人や亡くなってしまった人のことばと出会うことができます。一文一文を丹念に追って真剣にする読書は、まさに作家との対話です。それは、一文によって心が動かされ、思考し、人生が変わってしまうこともあるくらいのダイナミックな行為です。

こうして考えてみると、本というのは、普通に生きていたら出会えない人と出会うことができ、その人によって自分が変化する可能性がある、とても不思議なものだということが少しずつ分かってきます。本を手に取り、ページをめくることで、そこには芥川龍之介がいて、アナトール・フランスがいます。それってよくよく考えると、本当に不思議です。ほとんど魔法なんじゃないか、という気すらしてきます。

そして、このことこそがアナトール・フランスの言いたかったことなんじゃないでしょうか。本を読めば、普通に生きていたら出会えない人に出会えるんだぞ。そんな不思議で魅力的な出会いに、文庫本なら400円、図書館に行けばタダで巡り会えるのに、お前たちはなぜ小さく光る長方形の板をいじっているんだ、と。

よく言われることですが、SNSはどうしても自分に近い人、自分と価値観の合う人としかうまく関われない媒体です。自分と似た人から学ぶこともあるかもしれませんが、もし今の日々に違和感があるのなら、やはりそこには新しい思想が必要です。読書はそうした人にとって、思いがけない視点やアイデアをくれる魔法が詰まっています。ここまで見た通り、なにせ、異国に住む人や100年、200年、もっと昔の人からアドバイスがもらえるのが読書なんですから。

改めて本を読むということ

僕自身もこうしたことを考えるようになってから、ここ1年くらいまた読書をするようになりました。その経験から断言できますが、少し大人になってからする読書は本当に面白いです。

日々を生きる中で、思考や読解力自体は幼い頃と比べ間違いなく上がっていますし、色んなことを考えてきた分、本が”入って”きます。つい先日も、高校の頃、手に取り断念してしまった哲学書があったのですが、8年ぶりくらいに手に取り、読んでみたら、本当にもうびっくりするくらい分かるようになっており、とても面白い読書体験でした。

忙しい毎日で、とてもじゃないけど本なんて……という人も多いかとは思います。ですが、この秋は、一冊でもいいので小さな本を手に取り、秋の夜風を感じつつ、ゴロッと寝転がりながら、目の前にはいないその人との対話をしてみてほしいです。きっと、面白い発見があるはずです。

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